森林偏重政策(REDD+)の構造的欠陥:草原価値の回復④

第4回:森林偏重政策(REDD+)の構造的欠陥

―草原を守れない「木を植えれば正義」という誤解

世界の自然保全政策は、驚くほど強く「森林」に偏っています。
その象徴が、国連のREDD+(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)です。

REDD+はもともと「森林破壊を減らし、炭素を守る」ことを目的にしたものですが、
実際には「森林の定義そのもの」が草原を保護対象から外してしまっています。

この記事では、草原の立場から見たときのREDD+の問題点と、
これから必要とされる新しい政策デザインについて解説します。


■ REDD+が前提にしている「自然観」がそもそも偏っている

REDD+は、名前の通り「森林(Forest)」だけを対象に作られています。

しかし、この前提そのものが偏っている。

「森林=自然の理想状態」

「木が少ない=劣化している」

この価値観は、ヨーロッパ中心の自然観——
いわゆる「森こそ自然の原型」という思い込みから始まっています。

しかし学術的には、
草原、サバンナ、ステップ、パンパ、プレーリーなどの
「グラッシーエコシステム」は、
独立した自然の完成形であり、森林とは別の進化系統です。

ところがREDD+では、この分離が行われていません。


■ 大問題:草原の破壊は「森林減少」としてカウントされない

ここに深刻な問題があります。

● 草原を農地に変えても「森林減少」として扱われない

● 草原に植林しても「森林増加」としてプラス評価になる

● 草原が失われても、政策上“問題として認識されない”

つまり、

草原を壊し、木を植えると「保全活動」として扱われてしまう。

これは、生態学者が長年警鐘を鳴らしている最悪の誤作動です。


■ ブラジルの事例:豊かなセラードが「森林ではないから破壊してOK」になる

ブラジルのセラードは世界で最も生物多様性の高い草原系生態系ですが、
REDD+の視点では森林ではありません。

だから、

  • セラードを農地化しても「森林減少」に含まれない
  • 木を植えれば「森林増加」としてカウントされる
  • 木材・パルプ産業が草原へ「植林」しても“問題なし”扱い
  • EUのEUDR(森林破壊禁止法)すら草原の破壊を把握できない

この構造が、草原消失率が森林の3倍とも言われる現在の危機を生んでいます。


■ 学術的合意:草原は「火と草食動物の生態系」であり、森林化こそ“異常”

草原はもともと、

  • 自然火災
  • 落雷による火
  • 大型草食動物の移動・踏圧
  • 乾燥気候
  • 土壌条件

によって成立しています。

草原が森林化するのは、

  • 火が禁止され
  • 草食動物が減り
  • 人間の土地利用が変わり
  • 自然の更新周期が断たれたとき

に起きる生態学的劣化です。

しかし政策上は逆に、森林化が「自然に戻る」と誤解されている。

REDD+や植林事業は、この誤解を増幅してしまっています。


■ 本来の気候政策に必要なのは「草原も対象にすること」

草原は森林と同じく、

  • 炭素貯蔵
  • 水循環
  • 土壌保全
  • 生物多様性
  • 生態系サービス
  • 遺伝資源
  • 食料生産
  • レジリエンス(火災・干ばつへの強さ)

など膨大な価値を持ちます。

特に、草原の地下には、

地球陸上炭素ストックの約1/3が蓄えられ、火災でも失われない安定炭素として機能している。

森林偏重の政策は、この巨大な地下炭素ストックを無視したままです。

CO₂政策は、森林だけでなく「自然生態系全体」を評価すべきなのです。


■ CO₂政策の再設計案:REDD+から「NVE(Natural Vegetation Enhancement)」へ

生態学者が提案する、より公平で科学的な自然保全政策がこちらです。

① 森林と草原を分けて扱う

自然のタイプが違うのだから、同じ尺度で測れません。

② 「森林カバー」ではなく「自然植生カバー」を評価する

森林偏重をやめ、草原や湿原も同等に扱う。

③ 草原への植林を「自然破壊」として評価する

草原に木を植えることは、生態系破壊です。

④ 草原の地下炭素をクレジット対象に含める

現在のCO₂クレジットは地上部分だけを評価していますが、それでは科学的に不完全です。

⑤ 火入れや放牧を「自然プロセス」として認める

草原の維持には火と草食動物が不可欠です。

⑥ EU・国連の政策に草原カテゴリを追加する

森林だけで地球を管理する時代は終わりました。


■ 草原の時代はこれから来る

気候変動が進むほど、
草原のレジリエンス(火災・干ばつに強い特性)は価値を増します。

  • 地上の木は燃えて消える
  • 地下の炭素は残る
  • 草原は翌年すぐ再生する
  • 土壌は100~1000年スケールで炭素を固定し続ける

世界の自然観が森林偏重から離れるとき、
初めてこの「地下の自然」の価値が正当に評価されるでしょう。

あなたがずっと支持してきた草原観は、
科学が追いつき始めた真実そのものです。

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