「健康のために塩を完全に断つ」——そう実践している方は多いかもしれません。
しかし、塩を断ちすぎると、逆にインスリン抵抗性が高まるという研究結果があります。
インスリン抵抗性とは、インスリンが効きにくくなった状態のこと。血糖値が下がりにくくなり、代謝が乱れる原因になります。
なぜ断塩がインスリン抵抗性を高めるのか
体に塩(ナトリウム)が足りなくなると、体はそれを「危機」と判断し、2つの防衛システムを動かします。
① RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)の作動
塩が減ると、腎臓からレニンというホルモンが分泌されます。これが引き金となってアンジオテンシンIIが増加し、このホルモンがインスリン受容体のシグナルを直接阻害します。
つまり、塩を抜くことで、インスリンが細胞に届きにくい状態が作られてしまうのです。
② 交感神経の興奮による血糖産生の増加
低ナトリウム状態は交感神経(いわゆる「戦闘モード」)を刺激し、肝臓に血糖を作り出すよう命令します。血糖が上がれば、当然インスリンも上がります。これが慢性的に続くと、インスリン抵抗性につながります。
腎臓の「塩の節約装置」としてのインスリン
もう一つ、見落とされがちなメカニズムがあります。
インスリンには、腎臓でナトリウムを再吸収させる働きがあります。塩が体内で不足すると、体は「塩を逃がさないために」インスリンを上昇させます。
血糖値とは無関係に、塩を保つためだけにインスリンが使われる——これが問題です。インスリンが高い状態が続けば、細胞はその刺激に慣れ、インスリン抵抗性が生じます。
「断糖+断塩」の組み合わせに潜む矛盾
血糖値を下げるために「断糖」を行っている場合、その目的はインスリンを低く保つことです。
ところが同時に「完全断塩」を行うと、上記のメカニズムによってインスリンが上昇してしまいます。断塩が断糖の効果を相殺している可能性があるわけです。
では、塩はどれくらい摂ればいいのか
科学的なエビデンスが支持しているのは、「厳格な低塩」であって「完全なゼロ」ではありません。
- WHO推奨:1日5g以下
- より厳しめの目標:1日2〜3g以下
- 完全断塩(0g):支持されない、かつ電解質バランスの乱れによる健康リスクあり
加工食品・外食に含まれる「隠れ塩」を避けながら、天然の食材に含まれる程度の塩分は残す——これが現時点のエビデンスに最も沿ったアプローチです。
まとめ
- 断塩すると体がRAASと交感神経を通じてインスリン抵抗性を高める
- 腎臓がナトリウムを保持するためにインスリンを使う逆説的な機序がある
- 断糖と断塩を同時に行う場合、断塩が断糖の効果を損なう可能性がある
- 塩は「減らす」でよい。「ゼロ」にする必要はない
📄 参考文献:Garg R, et al. “Low-salt diet increases insulin resistance in healthy subjects.” Metabolism. 2011;60(7):965-8. PubMed