社会的距離戦略を精神面でも成功させる


COVID-19のパンデミックに伴い、政策の手段として「社会的距離」もしくは 「社会的距離戦略」という言葉が使われるようになりました。

「社会的距離戦略」 とは人との接触を避けたり、自宅からの外出を控えることで、感染拡大リスクを低下させることです。

感染リスクを下げる目的であれば、「物理的距離」さえあれば問題はないのですが、社会的生き物である人間が本当の意味で「社会的距離」を作るようになると、負の影響が大きくなります。

「社会的距離」の負の効果

仕事や学業をテレワークやオンライン授業などで行えたとしましょう。感染スピードは抑制されるでしょう。しかし、社会から隔離された人々は精神的なストレスにより健康を損なうリスクが高まります。特に隔離状態が数週間から数か月に変わる局面で精神的障害として現れます。

3月14日に ランセット 誌に掲載された、2000年代前半以降に流行した感染により隔離された人々の精神状態を調査した24の研究のレビューでは、ストレス、不眠症、精神的疲労、薬物乱用などが増加していたことがわかっています。(1)

高齢者においてはこの問題はより大きくなります。人は加齢とともに、移動や社交を行う能力が低下するからです。さらに、友人や家族が亡くなっていくと、サポートを受ける機会が減少します。

全米科学アカデミーによる2月の調査報告によると、65歳以上の米国人のほぼ4分の1は社会的に孤立しており、社会的関係がほとんどないか、他者との接触が少ないとされています。また、 60歳以上の成人の43%が孤独を感じています。

また、340万人以上の参加者を含む70件の研究のメタ分析研究によると、7年の調査期間中の死亡リスクは、孤独感を報告した人では26%、社会的に孤立している人では29%、一人暮らしをしている人では32%増加していました。(2)

精神的繋がりを取り戻す

前世紀にはなかったメールやLINEのようなテキストメッセージ、またはSNSのようなオンラインコミュニティなどを利用した社交は物理的に離れた人々の交流を助けてくれます。これまで、これらのオンラインツールを積極的に使ってこなかった層の人達も、意欲さえあればテクノロジーの壁を越えることで精神的な孤独感は緩和されるでしょう。

テキストメッセージなどキーボードを使うことに対するハードルが高くても、テレビ電話や今後開発される臨場感の高いツールによる対面コミュニケーションはさらに一段上のつながっている感を提供してくれます。

しかし、オンラインによるコミュニケーションはリアルなミーティングや、接触によるコミュニケーションの代わりにはなりません。特に人間は友好的に軽く小突いたり、なでたりする行為で負のストレスが減少することが多くの研究で分かっています。人間は「触りあう」生き物なのです。

テレワークやオンライン授業であれば物理的距離の制限がなくなるのですから、極端なことをいうと田舎に帰って両親と一緒に住みながら通勤通学も可能になるでしょう。家族で住むことでより孤立しやすい年配者と一緒に住むことができます。

また、気の合う人達どうしが住居をシェアするという選択肢もあります。外出禁止であれば、同居者が多くなることでのリスクは、家族との同居とあまり変わりません。「社会的距離」が実践され始める中で、物理的距離を補えるような「精神的距離」を社会全体で作っていくことが大切になってきます。

(1) The Lancet RAPID REVIEW| VOLUME 395, ISSUE 10227, P912-920, MARCH 14, 2020
(2) Perspect Psychol Sci. 2015 Mar;10(2):227-37.

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