20年前はスペインにとって海外のイベリコ市場と言えば主に日本だけでしたが、今では放牧の価値に世界中が気づき始めており、放牧イベリコの希少価値と価格の上昇により日本に入荷されるイベリコは放牧でない安価なものが多くなりました。
現在の流通で手にいれるのが難しいのであれば独自に仕入れるしかありません。それが今回のスペイン訪問の最大の目的でした。
イベリコ豚というとドングリを餌とすることで有名です。しかし、ドングリ林で自由に食放牧されているイベリコはほんの一部で、多くのイベリコは工業的に穀物のみで生産されて安価で流通されます。
今回はそんな放牧イベリコについて書いてみます。
歴史上、豚は人類の集落で身近に飼育され、重要なタンパク源でした。人の食べ残しなど、常に豊富な飼料を与えないと成長せず、離乳後の完全放牧などあり得ないと思われています。僕も自分の体で体験するまではなぜそれが可能なのか腑に落ちませんでした。
まず、ドングリを餌に成長するということですが、そんな大量のドングリをどのように調達しているのか。しかし、スペインの中心にあるエストレマドゥーラ州には地平線の向こうのどこまでも樫の木の原生林が広がる地域がありました。これがイベリコ放牧の舞台です。この自然の豊かさはちょっと日本の感覚では腹に落としこむことが難しいのではと感じています。
ドングリを食べ成長するのは9月から1月の秋のシーズンでモンタネーラと呼ばれます。今回のスペイン訪問はあえてその季節を外し、モンタネーラ以外でどのように放牧されているのかを確認する目的があったのですが、基本はどの季節もあまり違いはないということがわかりました。
それは常に豊かな餌を与えられないといけない白豚に比べ、イベリコ種が冬~夏の餌が豊富でない厳しい季節でも耐性が高いとこにあります。代謝の柔軟性が高いということですね。ハーブを含む牧草や小動物を大量に食べています。
イベリコ放牧のもうひとつの特徴はこの広大な樫の木の原生林の所有者である農家です。私達のイベリコ豚は一匹あたり2ヘクタールの密集した樫林で育てられています。今回訪れたスペインの放牧農家は200年~300年の歴史を家屋に残る手書きの書物などで説明してくれました。
これは初めてどこまでも広がるココナッツの原生林を見たときに感じた納得感ににています。
樫の木は30年経たないとドングリを実らすことができません。現代人の忙しい生活からは考えられないほどのゆったりした時間の中に連綿と受け継がれてるファミリーの歴史。
一度の訪問では多分理解することができない「広大な」という言葉の意味。ここで走り回ってる豚さん達が私達の食卓に上っていることにどこまでも感謝でした。次は違う季節に仲間と一緒に戻ってきて豚さんの生態をより理解したいと思っています。