厚生労働省もWHOも、「カリウムは1日3,000mg以上を」とすすめています1。
ところが現代人のほとんどが、この数字に届いていません。
サプリメントが足りない、という話ではありません。
問題は、私たちが「何を食べていないか」ではなく、カロリーをどこから受け取っているかにあります。
今日はその話を、いったん祖先の食卓まで遡って、自分で計算しながら確かめてみます。
途中で私の最初の見立てが一度ひっくり返るので、その修正もそのままお見せします。
1. そもそも、なぜ「1日3,500mg」なのか
最初に、意外な事実を一つ。
この「3,000〜3,500mg」という数字は、欠乏症を防ぐための基準ではありません。
ビタミンCが壊血病を防ぐために決められたのとは、成り立ちがまったく違います。
健康な人が食事だけでカリウム欠乏(低カリウム血症)に陥ることはまれで、欠乏を防ぐだけなら1,600〜2,000mgで足りてしまいます。
ではなぜ、その倍近い数字がすすめられているのか。
きっかけは「欠乏を防ぐ」ではなく、「生活習慣病を減らす」という別の問いでした。
- カリウム摂取が多い集団ほど脳卒中による死亡が少ない、という観察研究2。カリウムを1日10mmol多く摂るごとに脳卒中死亡が約40%低い、と報告されました——ただしこれは死亡わずか24例に基づく推定で、数字としては脆いものです
- カリウム豊富な食事パターンが血圧を下げた介入試験——いわゆる DASH試験3。この食事は1日約4,700mg(対照食の約3倍)のカリウムを設計目標とし、血圧を収縮期で平均5.5mmHg、高血圧の人では11.4mmHg下げました
この流れを受けて、米国は2005年に「目安量(Adequate Intake)4,700mg」を設定します4。
ところが、この数字は国民の95%以上が届かないという、基準としては不自然なものでした。
そして2019年、米国の科学アカデミー(NASEM)はこれを引き下げます。
男性3,400mg/女性2,600mgへ。
理由は、「高いカリウム摂取が特定の病気を減らす」という証拠が、一つの明確なしきい値を引くにはばらつきが大きすぎた、というものでした5。
一方でWHOは、血圧・脳卒中対策という枠組みを変えず、今も「≧3,510mg」を維持しています5。
つまり「いくつが正解か」は、いまも専門機関のあいだで割れています。
数字そのものは、まだ確定していない。
ここを出発点として押さえておきます。
2. 祖先は1日1万mg摂っていた、という説
数字の根拠を遡ると、必ず一本の論文に行き当たります。
Eaton と Konner の「Paleolithic Nutrition」6です。
彼らは、現存する狩猟採集民の記録と野生食物の成分から、旧石器時代の食事を再構成しました。
その推定では、祖先のカリウム摂取は1日約10,500mg(Eaton 自身による後年の改訂値では約7,000mg)。
いっぽうナトリウム(塩)は1日700〜800mg程度と、ごくわずか。
ナトリウムとカリウムの比は1未満——一説には1対16にもなり、現代食とは完全に逆転していた、という主張です。
ここで強調しておきます。
これは実測ではなく再構成モデルです。
1万mgという上限値は研究者によっては楽観的すぎると見る向きもあります。
鵜呑みにせず、自分で検算してみましょう。
まず「原始食=肉」というよくあるイメージから疑います。
3. まず「肉」を疑う——そして、実際にどれだけ食べたかを見る
狩猟採集民は、どれくらい動物性食品を食べていたのか。
世界229の狩猟採集社会を分析した研究7によれば、その73%が、生計の半分以上を動物性食品に頼っていました。
エネルギー比でも、生態学的に可能な場面では動物性食品が45〜65%を占めたと推定されています。
「原始食=かなりの割合が肉」というイメージは、大まかな傾向としては外れていません。
ただしこれは民族誌(Ethnographic Atlas)の生計ランキングに基づく推定で、グラム単位の実測ではない点は断っておきます。
その動物寄りの極端が、北極のイヌイットです。
ここで効いてくるのが、一つの生理的な壁。
タンパク質はエネルギーの約35%までしか摂れないという上限です。
絶対量でも、肝臓が尿素を合成できる速度から、1日およそ285〜365gが安全な上限とされます8。
これを超えると窒素を処理しきれず、「ウサギ飢餓(rabbit starvation)」と呼ばれる中毒に陥る——この狩猟採集民にとっての制約を最初に論じたのが、Speth と Spielmann でした9。
だからイヌイットは、エネルギーの大半を脂肪(アザラシやクジラの脂)から得て、タンパク質は上限近く、糖質はほぼゼロ、という形になりました10。
さて、カリウムです。
最初に私は「肉500g+脂肪100gで約1,800mg」と見積もりました。
ところがこれは控えめな一皿の話でした。
イヌイットのようにタンパク質上限近くまで食べると、計算はこう変わります。
1日約3,000kcal、イヌイット型の配分:
・脂肪 約50% = 1,500kcal → 脂・骨髄 約167g → カリウム ほぼ 0mg(脂肪は水分が少なく、カリウムをほとんど含まない)
・タンパク質 約35% = 1,050kcal → 約260g → 赤身肉 約1.2〜1.3kg
1,250g × 約350mg/100g ≒ 約4,400mg
・+ 内臓(レバー・腎臓)でさらに上乗せ
つまり、ほぼ動物性だけのイヌイット食でも、カリウムは約4,000mg超——現代の推奨量に届く、あるいは上回る可能性が高い。
脂肪と骨髄はカリウムをほとんど運ばず、運んでいるのは「痩せた筋肉の量」なのです。
ここが機序の肝です。
カリウムは脂肪ではなく、水分の多い筋肉の細胞の中にあります(カリウムは細胞内イオンです)。
だから小さなステーキでは少なく、イヌイットの一日分のような大量の赤身ではしっかり摂れる。
私の「1,800mg」は、量の前提が小さすぎただけでした。
4. 100%動物でも、100%植物でもない
ここで、もう一つの単純化も崩しておきます。
純粋な肉食も、純粋な植物食も、実際にはほとんど存在しません。
先のCordainらの分析でも、大半の社会は混合食でした10。
あの極北のイヌイットでさえ、植物を口にしています。
ベリー、海藻、そして——獲物であるカリブーの胃の内容物(反芻された地衣類や植物)。
これがビタミンCやカリウムの一部を補い、彼らが壊血病を免れた理由の一つと考えられています。
逆に赤道に近づくほど、芋・葉・果実の比率が上がります。
ハッザ(タンザニア)は野生の芋を掘りますが、それは乾季の「フォールバック食」で、年間を通せば蜂蜜・ベリー・バオバブ・肉と入り混じった食です11。
カラハリのクン人では、主食はむしろ芋ではなくモンゴンゴという木の実で、植物性食品の重量の約半分を占めていました12。
なお Lee が記録した1日約2,140kcal・タンパク質93gは、ある季節のスナップショットで、年間平均ではありません。
だから「祖先のカリウムは1つの数値」ではありません。
赤道では芋で高く、極北では肉で中くらい、という緯度のグラデーションです。
そして大事なのはここから。
現代食のカリウムは、そのいちばん低い極北のラインすら下回っているのです。
5. カリウムは”サラダ”には入っていない
では、植物のなかで何がカリウムを運ぶのか。
ここに、もう一つの思い込みがあります。
「野菜=サラダ=健康=カリウム」という連想です。
ところがレタス、トマト、キャベツ、きゅうりといったサラダの野菜は、ほとんどが水で、カリウムは多くありません。
100gあたりのカリウム量で並べてみます13。
| 食材 | カリウム(mg/100g) | カロリー(kcal/100g) |
|---|---|---|
| ビーツの葉(加熱) | 約909 | 27 |
| ヤム芋 | 約816 | 118 |
| 里芋(タロ) | 約591 | 112 |
| ほうれん草(生) | 約558 | 23 |
| じゃが芋(皮つき・焼) | 約535 | 93 |
| さつま芋(焼) | 約475 | 90 |
| ブロッコリー | 約316 | 34 |
| トマト | 約237 | 18 |
| キャベツ | 約170 | 25 |
| きゅうり | 約147 | 15 |
| レタス | 約141 | 14 |
芋類はサラダ野菜の3〜5倍。
一方で、ほうれん草やビーツの葉といった濃い葉物は芋に匹敵、あるいは上回ります。
つまり「g当たりの密度」だけなら、王者は芋ではなく葉物です。
ではなぜ、祖先のカリウムを稼いだのは葉物ではなく芋だったのか。
次の最後の視点で、すべてがつながります。
6. 本当の違いは「カロリーの出どころ」
同じカリウムを、今度は「100kcalあたり」で見直します。
| 食材 | カリウム(mg/100kcal) |
|---|---|
| ほうれん草(加熱) | 約2,425 |
| レタス | 約1,000 |
| ヤム芋 | 約690 |
| じゃが芋(皮つき) | 約575 |
| 白米(炊) | 約27 |
| 食パン | 約30 |
| 砂糖 | 約2 |
| 植物油 | 0 |
葉物は「カロリーあたり」では桁違いに高い。
なのに祖先の主役になれなかった。
理由は単純で、葉物だけでは一日のカロリーが満たせないからです。
レタスで2,000mgのカリウムを摂ろうとすれば1.4kg食べる必要があり、それでも約200kcalにしかなりません。
密度は高いのに、総量が積み上がらない。
ここで芋の特別さが見えてきます。
芋は、「主食(カロリー源)でありながら、カリウムが多い」唯一の食べ物です。
生きるために大量に食べる——その大量さに乗って、カリウムが勝手についてくる。
祖先は「カリウムを摂ろう」と意識したことなど一度もありません。
カロリーを食べたら、カリウムもついてきただけなのです。
そして表の下半分を見てください。
白米、パン、砂糖、油。
現代人がカロリーの大半を受け取っている、これらの精製された食べ物には、カリウムがほとんど入っていません。
現代食は、私たちの食べ物の「量」を減らしたのではありません。
同じカロリーを残したまま、そこからカリウムだけを抜き取ったのです。
祖先と私たちは、同じ1,500kcalを食べても、一方は1万mg、もう一方は数百mg。
違いは食べる量ではなく、カロリーの出どころにありました。
おわりに——足りないのは成分ではない
ここまで来ると、最初の「1日3,500mg」という数字の見え方が変わります。
問題は、カリウムという成分が足りないことではないのかもしれません。
足りないのは、カロリーの出どころが、ヒトが何万年もかけて適応してきた形から離れてしまったこと。
動物か植物かでもありません。
精製されたものか、まるごとのものか——分かれ道はそこにありました。
だとすれば、やるべきことはサプリメントを足すことでも、サラダを増やすことでもなさそうです。
主食を、まるごとの食べ物に戻す。
芋を一皿、皮ごと焼く。
それだけで、ヒトがずっと生きてきた塩とカリウムの比率に、少しだけ近づける——そう考えられるのかもしれません。
数字はまだ専門家のあいだでも割れています。
けれど「方向」のほうは、どの証拠も同じ向きを指している。
私はそこに、いちばん確かな手がかりがあると思っています。
※ 祖先のカリウム摂取量(1985年原典で約10,500mg、後年の改訂で約7,000mg)、イヌイット食からのカリウム試算(約4,400mg)、各食材の数値は、概算・モデルです。確定値ではなく、桁感と方向性を示すものとしてお読みください。なお Eaton 1985 の原典ミネラル表と Bilsborough & Mann 2006 の原文は有料/アクセス制限のため直接照合できず、Eaton 自身の2010年改訂および複数の二次文献で相互確認しています。
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World Health Organization. Guideline: Potassium Intake for Adults and Children. Geneva: WHO; 2012.(成人≧3,510mg/90mmol) ↩
-
Khaw KT, Barrett-Connor E. Dietary Potassium and Stroke-Associated Mortality. N Engl J Med. 1987;316(5):235–240. (PMID 3796701) ↩
-
Appel LJ, et al. (DASH Collaborative Research Group). A Clinical Trial of the Effects of Dietary Patterns on Blood Pressure. N Engl J Med. 1997;336(16):1117–1124. (PMID 9099655)/実測組成は Karanja NM, et al. J Am Diet Assoc. 1999;99(8 Suppl):S19–S27. (PMID 10450290)(設計目標約4,700mg・実測約4,400mg) ↩
-
Institute of Medicine (IOM). Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate. 2005.(カリウム目安量4,700mg。後にNASEM 2019が改定) ↩
-
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM). Dietary Reference Intakes for Sodium and Potassium. National Academies Press; 2019.(カリウム目安量を男性3,400/女性2,600mgへ改定) ↩
-
Eaton SB, Konner M. Paleolithic Nutrition. N Engl J Med. 1985;312(5):283–289. (PMID 2981409)/Paleolithic Nutrition Revisited. Eur J Clin Nutr. 1997;51(4):207–216. (PMID 9104571)/Paleolithic Nutrition Twenty-Five Years Later. Nutr Clin Pract. 2010;25(6):594–602.(原典カリウム約10,500mg・2010改訂で約7,000mg・Na 768mg・Na:K<1) ↩
-
Cordain L, et al. Plant-animal subsistence ratios and macronutrient energy estimations in worldwide hunter-gatherer diets. Am J Clin Nutr. 2000;71(3):682–692. (PMID 10702160)(社会の73%が生計の50%超を動物性食品に依存) ↩
-
Bilsborough S, Mann N. A Review of Issues of Dietary Protein Intake in Humans. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2006;16(2):129–152.(タンパク質上限:エネルギーの35%/約285〜365g/日) ↩
-
Speth JD, Spielmann KA. Energy source, protein metabolism, and hunter-gatherer subsistence strategies. J Anthropol Archaeol. 1983;2(1):1–31.(「ウサギ飢餓」=タンパク質上限の概念的枠組み。具体的な数値の記載はない) ↩
-
Bang HO, Dyerberg J, Sinclair HM. The Composition of the Eskimo Food in North Western Greenland. Am J Clin Nutr. 1980;33(12):2657–2661. (PMID 7435433)(伝統的イヌイット食:糖質はエネルギーの約2〜8%) ↩
-
Marlowe FW. The Hadza: Hunter-Gatherers of Tanzania. University of California Press; 2010./Pontzer H, et al. Hunter-Gatherer Energetics and Human Obesity. PLoS One. 2012;7(7):e40503. ↩
-
Lee RB. !Kung Bushman Subsistence: An Input-Output Analysis (1969)/The !Kung San: Men, Women, and Work in a Foraging Society. Cambridge University Press; 1979. ↩
-
食材のカリウム・カロリー値は USDA FoodData Central(SR Legacy)等の標準成分値に基づく概算。生/加熱や、データベース(SR Legacy/FNDDS)の違いにより値は変動する。 ↩