人類は本来、菜食である、とよく聞きますので、それは違うよ、ということをまとめてみたいと思います。
人類の遠い祖先をたどっていくと私たちは菜食でした。
しかし、人類は数百万年前に狩猟採集を選択してから、大量の肉を習慣的に食べていました。ただ、動物の内臓は化石になりませんので、このことを考古学的に検証することは不可能です。人類の祖先の内臓に動物が入ってて、そのまま化石になっていたら、「やっぱり!」となるのですが・・・。
そこで、人類が習慣的に肉食をしていたということは、生物の栄養摂取量や消化器や腸内細菌などを調べることで推測されています。
体重当りのエネルギー摂取量
以下は、体重あたりのエネルギー摂取量をkJ/Kg/日で表したものです。一日どのくらいの量を食べていたのか、ということですね。
上から下に、馬、ゴリラ、羊、テナガザル、ヒヒ、チンパンジー、オーラウンタン、ヒト、ネコ、イヌ、レオパードの順です。
植物は肉と比較すると微量栄養素などの栄養濃度が低いので、菜食/草食動物は大量の食物を食べる必要があります。人間は馬やゴリラなどの草食動物と比較すると肉食動物よりです。
胃腸の長さ
次は、胃腸の長さを見ていきます。植物の量当りの栄養濃度が低いということは、消化吸収に時間と労力がかかる、ということで、草食動物はとても発達した胃腸を持っています。
次の表は、「胃腸の長さと身長の比」と「胃腸の面積と皮膚面積の比」です。上から下に、牛、馬、ヒヒ、犬、ヒト、ネコの順です。
さて、人間の胃腸の長さや面積は典型的な草食動物と比較するとかなり短く小さいことがわかります。胃腸が長くなくとも栄養を吸収できる食べ物に順応している、ということです。植物食を十分に消化する胃腸を持っていないとも言えます。
ヒトの胃腸の長さは草食動物と肉食動物の間に位置します。また、胃酸に動物タンパクを効率よく分解する塩酸を含みます。
ヘム鉄の吸収
食物に含まれる鉄分は大きくは二通りのカタチをとり、一つはヘム鉄、もう一つは非ヘム鉄です。人においては、非ヘム鉄よりヘム鉄の吸収力が5倍ほど高いことがわかっています。
ヘム鉄はおもに肉などの動物食から得ることができ、非ヘム鉄はおもに植物から摂れる鉄です。草食動物はヘム鉄の吸収はできません。人はヘム鉄をより効率的に吸収することから、動物食に順応していた可能性が非常に高いです。
以上から、人は肉と植物を両方食べていくことが遺伝的にも正しいと言えるでしょう。
Human Evolution July 1998, Volume 13, Issue 3–4, pp 229–234