ここからは、多価不飽和脂肪酸(PUFA)が比較的多い豚や鶏を考えてみます。
ところで、猪と豚はどのように進化してきたのでしょうか?
野生の猪と豚は遺伝的に同じ祖先を持っています。豚は家畜化された9000年前から食用として好ましい肉質を作るために開発されてきました(1)。私達は野生の猪を家畜化して・・・と教えられてきましたが、ゲノム研究により、現在の猪と食用の豚の祖先は50万年前に分岐したことが分かっています。それでも、猪と豚の脂肪酸組成はあまり違いがないように見えます。
猪は野生の生き物ですので、ωバランスを測定するには狩猟するしかありません。狩猟した猪の脂肪酸組成を調べたスロバキア、およびリトアニアの研究からのデータを使います。
僕はシシ鍋が大好きで、冬季に宮崎を訪れた時は郷土料理のお店に必ず食べに行きます。狩猟した野生のシシ鍋はω3がたくさん入ってるんじゃないか、となんとなく思っていましたが、見事に期待を打ち砕かれました。まぁそんなことは気にせずにこれからも食べ続けますが・・・。
猪の家畜化の遺伝系統は一つではなく、 欧州 とアジアの2系統あるという説もあります。 欧州の豚はアジアの豚と交配をしながら現在の形になっています。もしかすると、欧州の猪研究で日本の猪を評価するのは批判を受けるかもしれませんが・・顔がすごく似てるので 問題ないのではないでしょうか(笑)。
さて、豚ののωバランスを考えるのは、牛や羊などの反芻動物よりも厄介です。
豚は家畜として穀物を与えられて育ちますので、完全な放牧飼育は不可能です。イベリコ豚はその歴史的背景から完全に放牧が可能な唯一の品種だと思っていますが、それでも大方のイベリコ豚は完全に穀物で肥育されます。
ごく一部のイベリコ豚はモンタネーラと呼ばれる秋の樫の木林における放牧で一日に10キロ以上のドングリを消費し成長していきます。しかし、ωバランスはほぼ変化しません(2)。おそらくドングリに含まれるω3は多くないからでしょう。
「放牧豚」は豚製品のラベルでよく使われていますが、ただ泥遊びができるような囲いの中で放牧されているものから、野原で自由に駆け回っているものまで様々です。
僕は3年前に完全放牧のイベリコ豚の輸入を試みて(まだ実現していませんが・・)スペインに行ってきました。
日本でも様々な養豚場を見に行きましたが、その中でこんな環境で飼育しているところは皆無でした。
豚の食餌において、ω3は草に多く含まれていますので、どのような放牧なのかがわからないとωバランスが改善しているのかどうかはわかりません。
猪や豚は本来土を掘り起こし、根や昆虫など を食べる生き物なので、かりに植物を食べる機会が多かったとしても、それは主食ではなく、副菜程度の割合ですので、ω3の含有は高くならないのでしょう。
ここでは、グレインフリー(穀物なし)とグレイン100%(穀物100%)の豚の比較を行った研究のデータを使いました。
放牧豚は「穀物フリー」となっていますが、不足しがちなリジンおよびカロリーを補うためミルクを与えられています。完全なパスチャーレイズドの豚は栄養補助されないと飼育ができないのですね。
豚肉においては、食餌からどんなに穀物を省こうと努力したところで、ω3比は反芻動物ほどは高くなりません。それは食餌における野生の草の割合が少ないからでしょう。豚さんも人間と同じように、木の根(でんぷん)やミミズや昆虫(タンパク質)など、草よりも栄養価の高いものを好むからでしょう。
それでも、豚を食べる、と決めているのであれば、放牧豚はベターな選択肢です。脂肪全体に占める多価不飽和脂肪酸の割合が高いので、僅か数%のωバランスの改善でもグラム単位でω6摂取を減らせます。
独り言:豚は大好きなので、美味しい豚が食べれるのであればありがたくいただきます。その時のために普段は牛か羊を食べておきます(^_-)-☆。
動物食のωバランス シリーズ
(1) 単純ではない動物脂肪酸組成研究の比較
(2) 動物によって異なる脂肪酸組成
(3) 反芻動物
(4) 豚
(5) 鶏
1) GENETICS April 1, 2000 vol. 154 no. 4 1785-1791
2) Foods 2020, 9, 149; doi:10.3390/foods9020149