「グラスフェッド」
そもそもは牧草飼育された放牧牛のことを表現する言葉ですが、米国では「オーガニック」や「グルテンフリー」などと同列の食ファッションキーワードになっています。
牛肉を中心とする草食家畜の肉や牛乳及び乳製品等に使われます。「牧草で育った牛さんからできてる製品です」、という意味です。
食ファッションキーワード…食品メーカーはこぞって自らの製品にこれをつけたがります。
「オーガニック」で「グルテンフリー」でしかも「グラスフェッド」ですよ!というわけです。最高に健康的な(実際はともかくそう見える)製品の出来上がりです。
「グラスフェッド」は進化生物学に準じたたんぱく質摂取を重んじるパレオダイエットやケトジェニックダイエットを実践するコミュニティの中で2010年頃から徐々に食の主流へへ広がってきた概念です。
市場が大きくなってくると、消費者の無知を良いことに従来の放牧型牧草牛でなくても「グラスフェッド」と称する商品が横行しはじめています。いくつか例を見てみましょう。
全ての牛は牧草牛
牛は誕生後、乳で成長しますが、離乳後ある時から穀物を与えられるようになるまでは牧草で育ちます。つまり穀物でどれだけ肥っても、一度は牧草を食べたことがあるのです。つまり、この見方からは、全ての牛は「グラスフェッド」です。
このことを利用して穀物肥育が入った牛を「グラスフェッド」として販売する食品メーカーが多くでてきています。特に生産者と食品加工会社が異なる場合に、ラベルロンダリングが起きます。
「グラスフェッド」の人気が高まるにつれ、一般スーパーでも「グラスフェッド」ビーフが並ぶようになりました。しかし、厳格なグラスフェッド標準を持つ米国グラスフェッド協会で認められている牧場はわずあ300程度しかありません(2005)。
このような牛さんと区別するために、100%牧草で育った牛さんをグラスフェッド&フィニッシュドと呼ぶ農企業/食品会社も出てくるようになりました。
フィニッシングとは離乳後、出荷まで牛さんを穀物で肥らすことをさします。その期間によって、ショート、ミドル、ロングと呼ばれます。穀物肥育が長くなるほど、筋肉へ脂肪の入り方が多くなります。
「100%グラスフェッド」「グラスフェッド&フィニッシュド」は牛さんの食餌のことをさします。しかし、食餌以外の環境については注意を払われてないこともあります。
餌は牧草、住環境は集中家畜飼養施設(CAFO)
飼育環境が放牧ではなくCAFOである場合でも餌が牧草(グラス)であれば「グラスフェッド」です。餌が穀物から牧草へと変わっただけです。
「グラスフェッド」から消費者が想像するのは広大な牧草地でのびのびと草を食む牛さんではないでしょうか?想像と現実の大きなギャップがここにあります。
牧草も様々な質が
牛さんにとって最も栄養価の高い牧草は、それぞれの土地で季節ごとに変わる青々と成長する草です。
CAFOで与えられる牧草はサイレージです。もともとは、草が枯れる冬季の餌として夏の間に収穫した草を保存するためのものです。乳酸発酵でペーハーを下げ、腐敗を防いで牧草を長期保存する方法です。
ところが冬季のみでなく一年を通してCAFOで牛を育て、餌の集中栽培の手段として遺伝子組換の牧草を農薬と除草剤で育て、サイレージを作る行為も横行しています。
グラスの種類も、牧草にもともと生えている品種ではなくグラス・ヘイと呼ばれる穀物の種子の収穫後のわらです。
わらも植物でセルロースですので、反芻によって消化されますが、青草とは栄養価が全く違います。
工業生産の考え方を農業に持ち込むと収穫高拡大のために消費者がとても目を当てられない行為が平然と行われるようになります。
食ファッションキーワード化の危険性
消費者は何を見たいのでしょうか?青々と繁る牧草地で草を平和にモグモグと反芻している牛さん達です。
消費者がその夢から覚めないように「グラスフェッド」を商品に冠するためには手段を選ばないビジネスが主流となりつつあります。
僕が最も危惧しているのが、この流れの中で、今、本物のグラスフェッドで生産している農家が淘汰されてしまうことです。
「オーガニック」、「グルテンフリー」、「フェアトレード」、「NON-GMO」等の認証ビジネスにより、それまで高品質の作物を栽培していた小規模農家達が効率的にそれらのキーワードを達成する食品会社に淘汰されていくのを僕は見てきました。
消費者がラベルのキーワードのみに安心を求め、農業や畜産の本質を見なくなった時に、長期的には本物の生産者を失うという皮肉が起こります。
真の「グラスフェッド」を日々の営みにしている農家が現在あり、その数もすこしづつですが増えていますす。市場が今後拡大したとしても、「グラスフェッド」を求める消費者のために未来永劫続いてもらいと願います。
「グラスフェッド」が単なるファッションキーワードではなく、農家の営みの一つ一つがその言葉の中に生きていること、その理解と一緒に消費をしていくことの大切さを伝えていきたいと思っています。
非常に興味深く読みました。エセオーガニックがたくさんある昨今、やっぱりグラスフェッドも色々あるんですね。本物の見分け方、購入の仕方・・・まだまだ日本は情報が少ないですね。豚は放牧豚が結構あるようです。