体は、放射能を見ていない ―― 選り分けないという、40億年の設計

いま、この文章を読んでいるあなたの体から、放射線が出ています。

1秒あたり4000回ほどです。
この1秒あたりの回数を、ベクレルという単位で表します。
出しているのはカリウム40という原子で、天然のカリウムのおよそ1万個に1個が、これにあたります。1

食べたものから入り、細胞の中に収まり、しばらくして出ていきます。
生まれてから今日まで、体がカリウム40だけを選んで捨てたことは、一度もありません。

捨てられません。
カリウム40だけを選り分けるには、カリウムそのものを捨てるしかないからです。
そしてカリウムは、細胞が細胞でいるための条件です。

放射性物質を体から出す方法を考えるとき、私たちは体を、溜め込む側のものとして見ています。
体のほうは40億年のあいだ、内側に放射性物質を抱えたまま動き続けてきました。

見分けられるものと、見分けられないもの

放射性かどうかは、原子核の性質です。
一方、体が触れているのは電子の側、つまり化学的なふるまいだけです。
この二つは、別の階層にあります。

ですから体の中では、性質の違う二つのことが起きています。

ひとつは、同位体どうしの場合です。
同位体とは、同じ元素でありながら原子核の重さだけが違うもののことをいいます。
放射性ヨウ素と、昆布に含まれる普通のヨウ素。
カリウム40と、それ以外のカリウム。
これらは化学的に同一で、原理的に区別できません
どれほど精緻な仕組みを備えても、見分けることは不可能です。

もうひとつは、似た性質を持つ別の元素の場合です。
セシウムはカリウムと似たふるまいをするので、カリウムの通り道に紛れ込んで筋肉へ運ばれます。
ストロンチウムはカルシウムと似ているので、骨に収まります。
こちらは完全に同じではないため、体内での動き方もカリウムやカルシウムとは一致しません。

どちらにしても、放射性物質という一つのまとまりは、体の中に存在しません。
入口が元素ごとに違えば、出口も元素ごとに違います。
まとめて外に出す経路は、はじめから作られていません。

育った通りのことを、しているだけ

甲状腺は、血液中の何十倍という濃度までヨウ素を汲み上げます。
ヨウ素は、海から離れた土地で暮らす人間にとって、長いあいだ足りない元素でした。
わずかな量も逃さず集める働きが、そこで育ちました。

放射性ヨウ素が入ってきたとき、甲状腺はその働きをそのまま実行します。
集めるべきものと集めてはいけないものを区別する手立てを、はじめから持っていません。

腸でも同じことが起きます。
胆汁とともに腸へ出たものを、体は回収して、もう一度使います。
腸肝循環と呼ばれる流れで、何ひとつ無駄にしないための仕組みです。
欠乏が当たり前だった時代には、これが正しい設計でした。
その律儀さが、セシウムを110日ものあいだ体内に留めます。2

骨でも同じです。
カルシウムを収めて手放さない働きが、ストロンチウムをそこに留めます。

三つとも、育った通りのことを忠実にやっています。
問題が起きているのは、働きが壊れたからではなく、働きが正常だからです。

ここで、現代医療の答えが意味を持ちます。

原発事故のあとに配られる安定ヨウ素剤は、甲状腺を止める薬ではありません。
先にヨウ素で満たしておいて、あとから来た放射性ヨウ素の入る場所をなくすものです。
セシウムに使われるプルシアンブルーは、腸の中でセシウムを捕まえ、あの律儀な回収を、そこだけ断ち切ります。
体内で半分に減るまでの日数が、110日からおよそ30日に縮みます。3

進化は、原子炉を想定していませんでした。
想定の外で起きたことには、外から答えを持ち込むほうが正しい。
この二つの薬は、その正しい答えです。

味噌汁の話

日本には、この話題にもう一つの系譜があります。

1945年8月9日、長崎。
爆心地から1.4キロの浦上第一病院で、秋月辰一郎という医師が、自らも被爆しながら治療にあたりました。
のちに秋月は、塩辛い玄米のおにぎりとわかめの味噌汁を職員に毎日与え続けたと書き残しています。
一緒に働いた従業員に原爆症が出なかった理由の一つは、わかめの味噌汁であったと確信している ―― 著書『体質と食物』にある言葉です。4

1980年代の終わりからは、広島大学の原爆放射線医科学研究所で、味噌と放射線影響の関係を調べる研究が続けられてきました。5

ここは、境界をはっきりさせておきたいところです。
秋月の記述は、本人の確信であって、比較の取れた記録ではありません。
広島の研究は、げっ歯類を対象に放射線による障害の軽減を調べたもので、人の体から放射性物質を取り除いたことを示すものではありません。

それでも、この物語が半世紀以上を生き延びてきた理由のほうには、目を向ける価値があります。

人類史のほとんどの期間、発酵は実際に保護でした。
腐敗から、飢えから、病原菌から、食べものと人を守ってきました。
発酵という言葉に守るという含みが染み込んだのは、正しい経験が積み重なった結果です。

その正しい一般化が、進化の時間軸の外にある相手にまで伸びている。
誤りというより、届く範囲を超えた、と言うほうが近いと思います。

「出す」とは、回転のこと

デトックスという言葉は、足すことで出す、という構造をしています。
何かを摂れば何かが出ていく、という取引です。

体の側から見ると、順番が逆になります。

体はもともと、出し続けています。
カリウムは日々入れ替わり、骨は絶えず作り替えられ、胆汁は回り続けています。
セシウムが110日で半分になるのも、その入れ替わりに巻き込まれて出ていくからです。
子どもでこの日数がさらに短いのは、体の入れ替わりが速いからにすぎません。

だとすれば、問いは何を足すかではなく、何が入れ替わりを遅くしているかになります。

ミネラルの薄い食事。
脂質を避けたことで細くなった胆汁の流れ。
通過の遅い腸。
慢性的に足りない水分。

どれも、特別な物質をひとつ足すことでは埋まりません。
現代の栄養の話は、いま何が足りないかまでを教えてくれます。
なぜ足りなくなったのかは、時間軸を持ち込まないと問えません。

私たちの体は、生まれたときから内側に放射性物質を持っています。
それを捨てる仕組みを、生命は40億年かけて作りませんでした。
作る必要がなかったからです。
かわりに作ったのは、カリウムを毎日入れ替え続ける働きのほうでした。

体が選んだのは、選り分けることではなく、回し続けることでした。


  1. カリウム40は天然カリウムの約0.0117%を占める。体重70kgの成人はおよそ140gのカリウムを持ち、そのうちカリウム40は約0.016g、崩壊は1秒あたりおよそ4,300回にあたる。

    Wikipedia, Potassium-40(存在比・体内量)/nuclear-power.com, Potassium-40 — Characteristics, Half-life 

  2. セシウム137の物理的半減期は約30年だが、成人の体内における生物学的半減期は約110日。約10%は2日ほどで速やかに、残る90%はゆるやかに排出される。

    U.S. FDA, Radiogardase (Prussian blue insoluble capsules) — Prescribing Information, 2003/CDC, Treating Internal Contamination with Prussian Blue 

  3. プルシアンブルーは消化管内でセシウムを結合し、腸肝循環を遮断して糞便中への排泄を増やす。体内の生物学的半減期は約110日から約30日へ短縮する。

    CDC, Prussian Blue — Radiation Emergencies 

  4. 秋月辰一郎(1916–2005)。長崎・浦上第一病院で被爆し、以後長く被爆者診療に従事した。引用は著書『体質と食物』より。

    ※投稿前に一次資料で該当箇所と版を確認すること 

  5. 広島大学原爆放射線医科学研究所の伊藤明弘らによる一連の研究。1988年頃から、味噌・大豆成分とげっ歯類の腫瘍形成・放射線影響の関係が調べられている。

    ※投稿前に原著(PMID)を特定すること 

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