ケトジェニックダイエットで透析をやめることができるのか?


国家予算の2%が費やされる透析医療

日本の透析患者数は32万人。透析患者あたりの一年の医療費は約500万円。透析患者は腎機能以外にも様々な合併症を起こしやすいのですが、それらの医療費を含まない透析費用のみで毎年1兆6千億円が費やされ、これらの数字は高齢化とともに増え続けています。
透析患者数

(一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会:透析患者数)

関連費用も含めると日本の国家予算の約2%が使われる透析医療。患者数を減らしながら解決はできないのでしょうか?
結論は、予防はほぼ可能です。そして現在透析を続ける患者の大半は透析の必要がない生活をおくることが可能になるかもしれません。

透析は腎臓の代わりに血液を浄化

透析とは血液の浄化器官である腎臓が機能しなくなった時に、浄化装置に血液を送り、浄化後の血液を受け取ることで、血液の質を維持する医療行為のことです。
腎臓病はインスリン療法や低タンパク質食で進行を遅らせることができるケースはありますが、他の慢性病の症状と同じく腎機能の低下は不可逆だと言われています。つまり、改善することはない、と信じられています。

腎障害に食事療法でアプローチ

慢性病の中には一般医療では改善が信じられていない糖尿病の様に生体エネルギー生産の燃料の種類を変えるだけで、症状が改善していくケースもあります。軽度の糖尿病に至っては、血糖値や血液検査上の脂質パネルに限れば半年以内には正常値に収まっていきます。
現在急増しているのは糖尿病由来、もしくは本人も自覚症状のない中で進行する高血糖由来の腎障害です。
高血糖の中で進行した症状であれば、低糖質な代謝によって腎機能は回復するのでしょうか?もしくは糖質に代わる燃料であるケトン体は腎機能の回復を促すのでしょうか?そうだとすれば、どのように機能改善が起こるのでしょうか?
これらの問いにアプローチしたニューヨークのマウントサイナイ病院のMobb 等による研究が2011年 、PLOS ONEに掲載されました(2)。
インスリンを分泌できない遺伝子ノックアウトマウス(低インスリンマウス)やレプチン抵抗性の高い遺伝子を持つノックアウトマウス(低レプチンマウス)を使い、それぞれ1型糖尿病、2型糖尿病をシュミレートできます。生後20週にはその全てのマウスが腎障害を発病します。
マウスの腎障害は通常の腎機能の検査でも使われるアルブミン/クレアチニン比によって確認できます。腎臓病の重要な機能の一つは血中のアルブミンの排出・再吸収だからです。

腎障害は血糖管理食では治らない?

糖尿病を発症しても、すぐに血糖値をコントロールするための食事に切り替えれば腎障害は予防できます。ところが、腎臓にタンパク質が異常値で検出されるようになると食事療法では腎臓障害を回復させることはできないというのが医学の通説です(1) 。
つまり、血糖値が高いことで壊れた腎臓がもとに戻るのか?という問いには、腎臓の環境が正常になったことで、自己治癒力で機能回復できる可能性はありますが、透析をしなければいけないほど進行した腎臓障害に対しては回復を支持する研究は少なく悲観的です。

ケトジェニックダイエットで腎障害は改善する

ところが、Mobbsの研究はさらに一歩踏み込んで、脂質87%、糖質5%の ケトジェニックダイエットをマウスで試験し、単なる血糖コントロールではなく、ケトン体濃度のコントロールもおこないました。その結果はどうだったのか。
低インスリンマウスは誕生後4週目で高血糖を発症し、20週目には腎障害を発症しました。そして、尿中アルブミンは10倍になりました。タンパク質が尿中にあふれる完全なアルブミン尿です。64%炭水化物の標準食を与えられたコントロールのマウスは22週目には病死を始めます。これは、透析なしでは死に至る人間の透析患者の腎状態とほぼ同じ状態です。
ケトジェニックダイエットを処方されたマウスは開始後1週間で、血糖値は正常値になり、8週間で尿中アルブミン値は正常値となりました。つまり、ケトン代謝において腎障害は可逆的である、つまり改善が可能であることが検証されたのです。
2型糖尿病発症を目的とした低レプチンマウスは生後12週で高血糖となり、その時点でケトジェニックダイエットに切り替えたところ、8週間で血糖値は低下したのですが正常値になるにはいたりませんでした。しかし、アルブミン値にみる腎障害は完全に回復しました。これも人体であれば透析状態から回復していることを意味します。
推測ですが、2型糖尿病を再現した低レプチンマウスは、時間をかけながらインスリン抵抗性が高くなっており、血糖値はこの抵抗性が回復するまでは緩やかにしか下がりませんが、長期の高脂質食によって抵抗性が回復すると、いずれ血糖値も正常値に収まっていくと思っています。

なぜケトジェニックな食事は腎機能を回復させるのか?

 さて、この研究ではケトンジェニックダイエットで腎障害から回復した理由への手がかりも探っています。
マウスの腎臓の遺伝子発現を分析してみたところ、低インスリンマウスと低レプチンマウスはコントロール群はどちらも腎臓に関係する遺伝子が発現していました。興味がある方のために、両方のマウスに発現していた9つの遺伝子とそれからつくられる酵素/タンパクの働きを簡単にまとめました。
ーーー
C dkn1a: 細胞周期進行を抑制することで腫瘍抑制を行うたんぱく
Mt2: 金属(主に銅)の保存、輸送、キレート化によって無毒化を行う主にシスティンで構成されるタンパク質
Lta: 炎症反応、免疫反応、抗ウイルス反応を仲介するリンパ細胞で作られるサイトキン
Nqo1: 活性酸素を作るキノンの無毒化やビタミンK代謝を行うたんぱく
Gpx3: 過酸化物を水に還元する酵素
Gsr: グルタチオンジスルフィドを還元する抗酸化における重要な酵素
Gstk1: 細胞の無毒化を行う酵素
Ercc6: 酸化によって傷ついた遺伝子修復のための酵素
Casp8: 細胞にアポトーシスを起こさせるシグナル伝達経路を構成すタンパク質(システィン、アスパラギン酸)分解酵素
ーーー
そして、ケトジェニックダイエットを処方し回復したマウスはこれらの遺伝子発現が全て抑制されていることが確認できています。細胞の酸化、無毒化、炎症などに関おいてケトジェニックダイエットは重要な役割を果たしていることがわかります。
病気は遺伝でしかたなく起こるものではなく、食事などによる環境要因による遺伝子発現で起こっており、これらはまた環境を変えることで、遺伝子発現を抑え、病気にならないことが可能であるということです。

糸球体は完全に回復しないが、部分的な回復は可能

 腎臓障害は腎臓でろ過の役割をしている糸球体が硬化することでおこってきます。この研究ではケトジェニックダイエットでは糸球体の硬化を完全に回復させるまでには至っていませんが、大きな部分的な回復は確認しています。
ケトジェニックダイエットで腎障害が改善する・・動物実験であったとしても、この結果は人体でも部分的に再現できる可能性は大です。残念ながら、透析患者を使った臨床試験はまだ少人数のパイロットスタディさえも実現していません。脂肪だけ食べて透析やめることができたところで、本人以外は誰も利益がないからですね。
誰も検証してくれないところでは、まず自分がサンプルとなってそのことを証明していく。それも私達が目指すケトンダイエットの目的の一つでもあります。残念ながら、ケトン志向の食事を続けているかぎり透析患者になってこの仮説を検証することはできません。
ここは透析/腎疾患に携わる臨床医と諦めていない透析患者のチームの挑戦に期待したいと思います。
1. Journal of Diabetes and its Complications , Volume 18 (5) – Sep 1, 2004
2. http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0018604
カテゴリー: 栄養, 食事と身体 タグ: , , , ,

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