低糖質なのになぜ血糖値が上昇するのか。糖尿病患者の低糖質パラドックス


糖尿病が進行した方は低糖質食を始めても血糖値が下がらないことが多いですね。低糖質どころか糖質を全く摂らなくても血糖値が上昇します。

糖の代謝能力は落ちているとはいえ、糖はエネルギーとなって出ていきます。出て行って、入ってないのに、血糖値があがるのは、中で作っているからです。

「糖新生」です。

糖新生とは血液から栄養分が、ベースラインを下回って低血糖にならないように、体内で部品を分解して燃料を作りだす仕組みです。

体内からエネルギーが枯渇してきた際に脂質やタンパク質(筋肉やお肌、骨、関節等のコラーゲン)を分解して糖を作ります。

サーカディアンリズム(体内時計)の作用により、 特に 朝の血糖値は上昇します。

糖尿病の症状である高血糖は、インスリンの反応が低下した、もしくはインスリンが出なくなったことにより、血糖を細胞に取り込む力が低下したからおこる、と一般的には信じられています。

ところが、2014年あたりから膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンによる糖新生が高血糖の本質ではないかという仮説が注目を集めています。(1)

例えばこの論文のタイトルは「グルカゴンと2型糖尿病:α細胞の帰還(逆襲)」となっています。

少し話はそれますが、スターウォーズの「Return of Jedi」は現在は「ジェダイの帰還」と題されていますが、リリースされた当初は「ジェダイの逆襲」でした。

つまり、糖尿病研究において、これまではインスリンばかりに光が当たっていたが、ついに私たちが日の目を見る時代が来た!とグルカゴン研究者のインスリンに対する逆襲の気持ちが表れているともとれます。

インスリンはβ細胞により分泌されますが、膵臓の中ではβ細胞が作り出す高濃度のインスリンによりα細胞によるグルカゴンの分泌がコントロールされています。

糖尿病が進行し、β細胞が少なくなると、α細胞をコントロールできなくなり、グルカゴンが大量分泌され、糖新生により糖が作られるのです。

実際に糖尿病と診断されるころには、このβ細胞は2-3割まで減少していると言われます。

インスリン注射などはあくまで、筋肉で細胞が糖を吸収できる濃度になる量しか投与できません。しかし、正常な膵臓の中ではこのなんと100倍ものインスリン濃度によってα細胞がコントロールされ、糖新生を起こすグルカゴンの過剰分泌が抑えられています

しかし、膵臓内のβ細胞が少なくなると、α細胞の働きがコントロールできず、糖新生が過剰に引き起こされてしまうのですね。

昨年では日本語でもこの仕組みのことを説明する書籍が出版されています。少しアカデミックよりな本ですが糖尿病とグルカゴンの関係を詳しく知りたい方にはお薦めです。

さて、医療の分野ではグルカゴンの分泌を抑えるGLP1の働きを模倣する薬の開発に焦点が当たっています。この本も考え方としては薬品投与を中心とする従来の医療の枠を超えていませんでした。

実は食事法で、グルカゴンの分泌は抑えられるという仮説があります。そのことについてはまたお伝えする機会を作りたいと思います。

(1) Curr Diab Rep. 2014 Dec;14(12):555.

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