「飽和脂肪酸は体に良くない」をなぜ信じてしまうのか (2) 根拠の有無を確認する


ここでは資料記事を読みながら、ココナッツオイルの飽和脂肪酸がなぜいけないのか、がどう説明されているのかを見ていきます。

参照論文が掲載されているか

ここで問題になるのは、日本語メディアは参照元を表示していないゴミのようなサイエンス記事にあふれていることです。これは学校教育において、他人のオリジナルな考えを使って意見表明する時は、その情報は何処から来ているのかを明記する、という基本を教えられていないからではないでしょうか。

私は高校から米国で過ごしましたが、参照や脚注で情報の出自を明らかにすることは1年生から徹底的に叩き込まれます。文化の違いによる洗礼の一つでした。相互批判によって質を高めていくことが容認されている文化だからでしょう。また、批判する時も、お互いの情報を批評することで、人格攻撃になりにくい仕組みであるとも言えます。

「あなたは何の情報に基づきその主張をしているのですか?」

という読み手の批判精神に 書き手が 応えられていないので、「○○がカラダに良い」もしくは「よくない」と言われても、同意も不同意も表明できません。ただ、「ああ、そうですか」というしかありません。

資料1資料2もその点では非常に品質の低い情報ですが、では参照がしっかりと行われている記事があるのか、というと、メディア側の規律が緩く、参照のない記事を垂れ流しているので、いつまでたっても日本の消費者はゴミ記事を材料に判断をしなければいけない、という問題も続いています。

また、消費者が自ら質の高い情報を求めていく、という規律も文化的に低いので、質の悪い情報に振り回されやすい、という特徴があります。

この二つの資料は参照論文の掲載はありませんでした。根拠が示されていないので、読み手が簡単に批判できないのです。

著者名が表示されているか

資料2は「サイエンス」というメニューがあるにも関わらず、記事を書いたライターの名前も参照論文も掲載されていません。誰も自分の名誉にかけて表現の内容に責任を持っていない情報です。

自分の命を預ける「健康」のような問題を考える時には、その情報の質はとても大切です。参照論文や著者名の載っていないゴミ記事は素通りして、もっと信頼のあるページを探していきましょう。最低でも、ライター名、著者名が分かれば記事の品質の保証に対する覚悟を見ることができます。

英文でも自動翻訳で読んでみる

資料1は海外の英文記事の翻訳でした。ライター名(翻訳者名)は本名ではないので翻訳内容に誰も責任を持っていないゴミ記事ですが、これもはじいたら、使える資料が無くなりますので、そのまま進めていきます。

記事内の主張に参照元がある箇所もあります。翻訳文と照らし合わせて一体どんな研究を根拠としているのかを評価していきます。

英文を読めない人はこの段階で投げ出してしまう人がほとんどです。

しかし、「健康」は自分の人生のこと、生命のことです。論文をgoogle翻訳にかけて、「要旨」のセクションだけでも眺めてみる気概は持ってもらいたいです。

現在の自動翻訳の精度に皆さんはがっかりされているかもしれませんが、科学論文は自動翻訳が最も得意としている分野で、専門用語を含め、かなり正確に訳してくれます。

いい加減な英文の翻訳記事が、事実と科学的解釈をねじまげる

「膨大な数の実験結果が、飽和脂肪酸が悪玉コレステロールを増加させることを示している。ミッシェル教授の主張は科学的で明快だ」

という箇所があります。

いかにも これまで多くの臨床試験で飽和脂肪酸を被検者に食べてもらい、悪玉コレステロールの上昇を確認したかのような表現がされていますね。

念のために、同じ部分をgoogle翻訳にかけてみましょう。

“There’s a huge amount of scientific evidence of many different types from population studies to experiments in animals to experiments in humans that show that saturated fat raises LDL cholesterol”

「人口調査や動物や人間での実験の結果、飽和脂肪がLDLコレステロールを上昇させることを示す、さまざまな種類の科学的証拠が大量にあります。」

資料1の翻訳文は、最初からLDLコレステロールの全ては悪玉コレステロールである、というバイアスのかかった翻訳であることがわかります。

脂質研究者であれば、LDLには様々な種類があり、その種類によって健康への影響は良くも悪くもなる、というのは常識ですが、表面的な栄養の知識しかないと、自分の常識の「LDL=悪玉」をそのまま翻訳に当てはめてしまうのですね。

飽和脂肪酸はLDLを上昇させますが、それは良い種類のLDLです。まずその理解がないと、ここでで躓きます(1)。

原文では飽和脂肪酸はLDLを上昇させる、としていますので、ではそれが悪影響を及ぼすかどうかを判断できるレベルのエビデンスが根拠としてあげられているかどうかを見ていくことで、この記事の品質を確認していくことができます。

エビデンスが無い?

翻訳文には「ココナッツオイルを支持する健康上の主張の多くは、動物実験を根拠とするものでした。」とあり、まるでココナッツオイルを使った臨床試験が一つもないような印象を与えています。

これを否定するのは簡単で、一つでも人を使った臨床試験を提示すればよいのですが、2つ挙げておきます。

ココナッツオイルは血清脂質(コレステロール)の改善と内臓脂肪の低下を促す

ココナッツオイルは腹囲を減少し肥満を改善する

オイルが健康にどのような影響があるのか、はそのオイルの脂肪酸組成によります。それぞれの脂肪酸が異なる生理作用を持つからです。

ココナッツオイルは単なる食品ですので、費用のかかる臨床試験は行われにくいですが、MCTのようなココナッツオイルの脂肪酸単位での投与を行った試験は無数に存在します。

例えばココナッツオイルに含まれるトップ5の脂肪酸を「health (健康)」や「obesity (肥満)」などの興味があるキーワードと一緒にgoogle scholarで検索することで、どんな作用があるのか、エビデンスがあるのかないのか、すぐにわかります。きっとその量に驚かれるでしょう。太字は中鎖脂肪酸(MCT)です

ココナッツオイルの脂肪酸トップ5

ラウリン酸 48% :Lauric Acid
ミリスチン酸 16.5%:Myristic Acid
パルミチン酸 9.5%:Palmitic Acid
カプリン酸 8%:Capric Acid
カプリル酸 7%:Caprylic Acid


(1) 複数の同じような主張を展開している記事を読み、問題を定義する
(2) 主張の根拠の有無を確認する
(3) 主張の根拠を評価する: エビデンスの強さ
(4) 誰が主張しているのかを調べる
(5) 迷ったら First Do No Harm 進化生物学的に考える
(6) 直近の研究のアップデート

参照

1) http://dx.doi.org/10.1136/openhrt-2018-000871

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