「牛乳は牛さんの赤ちゃんが飲むもの。人間が飲むものではない。」
これは正しいのでしょうか?コップ2杯の牛乳でお腹が緩くなる私は長い間、同様の主張をしていました。
牛乳には乳糖が含まれており、乳糖を消化するためには授乳中にしか作られないラクターゼ(消化酵素)が必要で、日本人の90%は乳糖不耐です。明らかに炎症を起こすものを摂取するのは道理ではない、と思っていました。
しかし、3年前にこの考えを半分転換しました。
原始人食から農耕食への変化を調べていた時に、人間と乳の関係性を学びました。
人間は乳糖に耐性ができるまでは、乳を発酵させることで摂取していました。発酵すると乳糖が分解されるからです。ヨーグルト、チーズ、バターは最も消費されている発酵乳製品です。しかし、その過程で20-50%のカロリーが失われます。十分なカロリーを摂取することが難しかった当時、それは大きな問題でした。
人間は農耕を始める前から乳を摂取していました。当初は炎症を起こす乳糖が原因でミルクをそのまま飲むことはできませんでしたが、遺伝子変異によって現在は北欧系白人を中心に全世界人口の90%が何らかの乳糖耐性を持ち、40%はミルクを問題なく消化できます。牛乳だけではなく、地域によってはラクダや羊、山羊の乳が飲まれています。
遺伝子解析によると10,000年前に現在のトルコ共和国の付近で、ある男性に乳糖耐性の遺伝子スイッチがONになり、それから2~3,000年の間にユーラシア大陸全域、英国、北欧、地中海、中央アジアにまでこの遺伝子は広がっていきました。また別の遺伝子変異がアフリカや中東でも起きました。
しかし、人類進化の歴史から見ると、ほんの一瞬にしか過ぎないその期間に、どうして乳糖耐性をもつ遺伝子がここまで広がったのでしょうか?適者生存の道理に照らせば、乳糖耐性を持った人類は、耐性を持たない遺伝子を駆逐していったのでしょう。
具体的には、ミルクの栄養を摂りこむことができた人は、①健康だった、すなわち病気にならず、戦闘にも強く生存率が高かった、もしくは、②異性から選ばれた、すなわち生殖の機会が多かった、ということです。
特に農耕時代に入ると、不作などで飢饉が起きても家畜とミルクさえあれば生存できました。また、穀物に頼り始めると、食事からの栄養価が極端に減りますが、ミルクの栄養が補助となったとも言えます。農耕が広がったところに乳糖耐性も一緒に広がったのでしょう。
乳糖耐性人口が爆速で広がった理由は、日照が少ない地域では必要なビタミンDを筆頭に様々な栄養素が考えられますが、最も大きな影響を与えたのがバランスの取れたアミノ酸組成を持つ乳タンパク質と、オメガ3が豊富な乳脂肪でしょう。
海を隔てたアメリカ大陸、オーストラリア大陸、日本を含む極東などは農耕文化が伝わったのはかなり後のことで、日本は弥生時代に稲作が広がる前は狩猟採集文化でした。そしてこの地域の人口は現在もほぼ乳糖不耐です。
私は今でも牛乳を飲むとお腹が緩くなります。しかし、私と同じような乳糖不耐の人達でも、乳糖を除いたタンパク質やオメガ3が豊富なグラスフェッドバターを食べることで、圧倒的な生存能力を手にすることができるのではないか、というのが考えを半分転換した理由です。
残り半分はというと、当時爆発的にシェアを獲得した乳糖耐性を持つ人達が飲んでいたグラスフェッドミルクと、現在スーパーに売っているグレインフェッド(穀物肥育)牛乳は栄養価が全く違います。ミルクであろうが、ミルク由来の発酵品、加工品であろうが、乳糖を除去してあろうがなかろうが、穀物肥育乳牛の乳の摂取はできるだけ控えたいと考えています。
Mark Kurlansky, “Milk!: A 10,000-Year Food Fracas”
https://amzn.to/2xRPh4O
Gregory Cochran, “The 10,000 Year Explosion: How Civilization Accelerated Human Evolution”
https://amzn.to/2M6kTqw