生まれた日が、その人を語る ―― アステカの暦占いと、東洋の宿命論

テノチティトランで生まれた赤ん坊と、長安や京の都で生まれた赤ん坊。
二つの文明は、互いの存在を知らないまま、同じことをしていました。
生まれたその日から、その子が何者になるのかを読み取っていたのです。

英語で星占いを意味する horoscope という言葉は、ギリシャ語の hōra(時)と skopos(見る者)に由来し、もともと「時を見る者」を意味していました。
占いとは、星を見上げる前に、まず人が生まれた、その一瞬の時を見つめる営みだったのですね。
そして「時を見る者」は、地球の反対側にも、同じように立っていました。

アステカの「時を見る者」

アステカには、260日で一巡する神聖な暦がありました。
トナルポワリと呼ばれます。
20の日のしるしと、1から13までの数字が組み合わさり、20と13の掛け合わせで、260日の周期をつくります。
人は皆、「4のジャガー」「1の雨」といった、日のしるしと数字の組を背負って生まれてきます。
その組み合わせが、その人のトナリ――いわば魂の力と宿命――を決めると信じられていました。

トナルポワと呼ばれる暦の司祭が、『日々の書(トナルアマトル)』を開いて、生まれた子の運命を読みます。
名を与え、結婚の日を選び、戦の日を、種蒔きの日を占う。
社会全体が、この一冊の暦の上で回っていました。

東洋の「時を見る者」

海を隔てた東洋にも、生まれた日から人を読む体系が、いくつも育っていました。

中国では、生まれた年・月・日・時の四つを、それぞれ干支という記号の組に置き換えて運命を読む、四柱推命が生まれます。
おもしろいことに、干支の「干」はもともと幹を、「支」は枝を意味します。
十本の幹(十干)と十二の枝(十二支)が噛み合い、10と12の掛け合わせで、60年の周期をつくるのです。
十二の枝を動物になぞらえた干支――子、丑、寅――で生まれ年を語る習慣は、いまも私たちの正月に生きています。

インドでは、月が夜空を渡っていく道すじを27に分けた「ナクシャトラ(宿)」、すなわち月の宿りが、人の生まれ星を定めました。
この27の宿という考えは、やがて仏教とともに東へ渡り、日本では宿曜という占星の体系になります。

系統も、暦も、神々も、まるでばらばらです。
けれども、その中心に置かれた問いは、驚くほど同じでした。
――この子は、いつ生まれたか。だから、どう生きるのか。

二つの文明が、同じ「歯車」を作っていた

ここに、ひとつの発見があります。

アステカの暦は、20と13という二つの数の輪が噛み合って、260日を刻みました。
東アジアの干支は、10と12という二つの数の輪が噛み合って、60年を刻みました。
どちらも、二つの周期を歯車のように噛ませて、その最小公倍数にあたる大きな一巡をつくっているのです。
一方は日を数え、他方は年を数えながら、たがいに何も知らないまま、同じ構造の時計を発明していました。

人が生まれるとは、この噛み合う歯車の、ある一点に置かれることでした。
どの歯と、どの歯が噛み合った瞬間に生まれ落ちたか。
それが、その人の座標であり、宿命だと考えられたのです。

なぜ、人はどこでもこれを作ったのか

時計やカレンダーが、ただの予定表になる前の時代を思い出してみてください。
時間は、抽象的な一本の線ではありませんでした。
それは、めぐって帰ってくるものでした。
朝と夜、満ちては欠ける月、雨季と乾季、種蒔きと収穫。
生きるとは、これらのくり返しの中に身を置くことだったのです。

だから、生まれるとは、ただ時刻を刻印されることではありませんでした。
めぐる時の、どの配置の中に生まれ落ちたのか。
それを知ることは、自分が宇宙のどこに属しているのかを知ることでした。
生年の暦とは、世界のどこであっても、自分が大きな循環のどこに繋がれているのかを確かめる技術だったのですね。

念のために、一つ言い添えておきます。
これらの体系がもっていた天文観測の精度は、本物でした。
アステカが連なる中米の伝統は、金星のめぐりを583.92日と測り、現代の値との差はわずか14分ほどでした。1
けれども、その同じ精度で「人の運命」まで言い当てられるかどうかは、まったく別の問いです。
空を測る精度と、宿命を読む確信とは、同じ司祭の手のなかにありながら、性質のちがうものでした。
ここで見ているのは、占いが当たるか外れるかではありません。
人がどこでも、めぐる時のなかに自分を位置づけようとした――その普遍的な衝動のほうです。

一本の糸

私たちはいま、生まれた日を、書類に書き込むただの数字として見ていることが多いのかもしれません。
けれども、かつて世界のあらゆる場所で、その日付は、めぐる宇宙とあなたを結ぶ一本の糸でした。

今日が、暦のうえでどんな一日なのか。
窓の外の光の角度や、風にまじる匂いから、ふとそれを感じ取れる日が、また戻ってきますように。


※ この記事には前編があります。アステカが世界を「四度の終わり」として数えた神話については、「五つの太陽」の物語をどうぞ。


  1. マヤを頂点とする中米天文学は望遠鏡以前として世界屈指の精度を誇り、金星の会合周期を583.92日(現代値583.93日)と算出した。天文学者アンソニー・アヴェニは、この金星表を「科学史上まれにみる達成」と評している。 

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