「低糖質は寿命を縮める」と聞いたら ―― グラフのいちばん左に、何人いたか

健康診断のあと、糖質を少し控えはじめた。
体が軽くなって、気になっていた数値も、良い方へ動いてきた。
そんなときに、こんな見出しが目に飛び込んでくることがあります。

「低糖質の食事は、寿命を縮める ―― 権威ある医学誌が示した」。

試しにAIに尋ねても、似たような答えが返ってくるかもしれません。
胸が、きゅっとなる瞬間です。

でも、ここで一度、立ち止まってみます。
その研究を、私と一緒に開いてみましょう。
怖がるためでも、都合よく退けるためでもなく、ただそのまま読むために。

一本の、U字のカーブ

話の中心にあるのは、2018年に発表された、ある大規模な追跡研究です。1
アメリカの約1万5000人を、中央値で25年という長い年月にわたって追いかけました。
そして、糖質をどのくらい食べていたかと、その後の死亡率の関係を、一本のカーブに描いた。

そのカーブは、U字をしていました。
糖質が極端に少ない人も、極端に多い人も、死亡率がやや高い。
いちばん低かったのは、ちょうど真ん中 ―― エネルギーの50〜55%を糖質からとっていた人たちでした。

ここで、二つの誘惑が生まれます。
糖質をたくさん食べている人は、「ほら、やっぱり」と胸をなでおろしたくなる。
糖質を控えている人は、「こんな研究、当てにならない」と目をそらしたくなる。

どちらも、読んだことにはなりません。
だから、カーブのいちばん怖いところ ―― 左の端に、もう少し近づいてみます。

いちばん左に、何人いたか

この研究の参加者は、平均して、エネルギーのおよそ49%を糖質からとっていました。
そして、いちばん糖質が少なかった5分の1の人たちでさえ、その平均は37%です。

ここが、最初の勘どころです。
糖質が少ない、といっても、その多くは、私たちが思い描く低糖質とはずいぶん違います。

では、カーブの左の端 ―― 糖質が20%という、本当に少ない場所には、何人いたのでしょう。

平均から、ずいぶん離れた場所です。
参加者のばらつきから見積もると、1万5000人のうち、ほんの20人ほど2
つまり、あの「低糖質は危険」という左肩上がりの線は、20人ばかりの上に引かれている

1.0 ハザード比(死亡) 20 50 80 糖質エネルギー比(%) 50〜55%で最低 左端 ≈ 推定20人ほど 1万5000人のうち・帯が広い
Seidelmann et al., Lancet Public Health 2018 の報告値をもとにした模式図(原論文の図の転載ではありません)。左へ行くほど人数が減り、帯 ―― 信頼区間 ―― が大きく広がります。20%付近の人数は分布からの推定。

グラフをよく見ると、左の端では、線のまわりの帯 ―― どのくらい確からしいかを表す幅(信頼区間といいます)が、大きく広がっています。
人が少ないほど、確かさは落ちる。
なめらかに見えるあの曲線は、わずかなデータを「たぶんU字だろう」という前提でつないで描いたもの ―― そういう部分を、含んでいます。

それでも、低糖質の人は「いた」

ここで、一段、深めておきます。

いちばん糖質が少なかった人たちは、実は全体に小食でした。
一日あたり、平均でおよそ1500キロカロリー。

その1500キロカロリーのうち、20%が糖質だとすると ―― 計算して、一日およそ75グラム
これは、しっかりとした低糖質です。

だから、この研究に低糖質の人はいなかった、とは言えません。
低糖質の人は、確かにいました。
ただ、ほんの数人だった。
数が少ないほど、そこから引いた結論は大きく揺れる ―― それだけのことです。

この研究が、見ていないもの

そして、いちばん大切なところに来ます。

糖質を減らすとき、私たちは、その分を何かで埋めます。
肝心なのは、この研究が「何で埋めたか」の、その中身を分けきれていないことです。

動物性のものに置き換えたか、植物性のものに置き換えたか ―― そこまでは、この研究も見ています。
けれど、現実に起きているのは、たいてい、こういう連鎖です。

糖質を減らす。
そのぶん、たんぱく質が増える。
手軽さから、加工された食品が増える。

減った糖質のかわりに入ってきたのが、加工食品の添加物なのか、余分なたんぱく質なのか、それとも良質な脂質なのか。
その中身を、このカーブは区別していません。
だから、糖質を減らしたことの結果なのか、一緒に入ってきたものの結果なのかが、混ざっている。

質のよい脂質と野菜で、きちんと組み立てた低糖質が、どうだったか。
それは、このグラフの中には、映っていないのです。

同じ目を、両方に向ける

この一本のカーブから言えることを、まとめます。

低糖質が寿命を縮める、とは書かれていません。
書かれているのは、両端で死亡率がやや上がる、という関連。
そして、その左端は、いちばん人数が少なく、いちばん揺れやすい場所にあります。

大事なのは、この研究を叩くことでも、崇めることでもありません。
都合の悪い研究から目を背けず、都合のいい研究にも、同じ目を向ける。
人数を見る。
なめらかな線の下に、何があるかを見る。
そして、その研究が測っていないものを、見る。

数字は、希望でも不安でもなく、読むものです。
怖い見出しを見たときに戻る場所は、いつも同じ。
グラフのいちばん左に、何人いたか。
そこから始めれば、たいていの不安は、輪郭を変えていきます。


  1. Seidelmann SB ほか「Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis」Lancet Public Health、2018年。原文(Lancet Public Health)。オープンアクセス(CC BY-NC-ND 4.0)。本稿は原論文の図を転載せず、内容を要約して紹介しています。 

  2. 「20人ほど」という数は、参加者全体の糖質エネルギー比の平均(約48.9%)とそのばらつきの目安(標準偏差9.4)から見積もった概算であり、論文がその人数を明記しているわけではありません。最も糖質が少なかった5分の1の集団(約3,086人)の中央値は37%、平均摂取エネルギーは一日あたりおよそ1,558キロカロリーと報告されています。 

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