果糖は肝臓で脂肪にならない?


フルーツというと健康的な食材の代表格でしたが、2012年あたりから果糖の肥満や脂肪肝などの代謝障害に対する影響が明らかになってくるにつれて、フルーツもたくさん食べるのは良くないとする主張も多くなってきました。

低糖質食界隈の中で「ブドウ糖」が批判されているように、「果糖」もまた批判されるようになりました。例えば、「果糖 健康」で検索をしてみると10件の結果のうち9件は果糖の摂取に対するネガティブなタイトルでした。

「果糖の摂取量は肥満と相関がある」ことを示す 疫学研究や「果糖の過剰摂取は脂肪肝を起こす」など因果を示す介入研究など、これまでの果糖研究は果糖の過剰摂取の害を強調していましたので、一般的に「果糖は健康によくない」との印象が識者の間で広がったのだと思います。

果糖はフルーツだけでなく、ショ糖(砂糖)の半分を占める分子ですので、砂糖を多用する現代食にも多く含まれるようになっています。

果糖の代謝経路の理解に大きな転換を促す研究が2018年に最高峰の学術誌「セル(Cell)」の代謝領域を扱う姉妹誌「細胞代謝 Cell Metabolism」に出てきました(1)。なんと、果糖は小腸でほとんど代謝され、肝臓にはほぼ輸送されないというのです。

果糖は小腸でブドウ糖に転換される

果糖の摂りすぎが代謝障害につながることはわかっていましたが、どのような作用で起こっているのか、は明らかになっていませんでした。ところがこの研究では、低量の果糖であれば、~90%は小腸で ブドウ糖、乳酸、およびグリセリン酸に代謝されていることが明らかになったのです。

これまでの一般的な理解である「果糖は肝臓に輸送され、肝臓で代謝される」という概念を大きく覆す内容でした。

The Small Intestine Converts Dietary Fructose into Glucose and Organic Acids
Cell Metab. 2018 Feb 6; 27(2): 351–361.e3.

この研究では果糖給餌量を変動させて調査をすることで、マウスの体重1Kg当たり0.5gの果糖摂取で、小腸の果糖の代謝量の限界を超え、果糖が肝臓や大腸に送られることが分かりました。

マウスではなく人間ではどうなのでしょうか?

ネズミと人間のカロリー消費量の違い(12kcal vs 2400kcal)を前提とすると一日あたり3gの果糖摂取で小腸の代謝限界量を迎えるそうです。この文献ではミカン1個程度の量であるとしています。

果糖はゆっくり摂取するとよい

また、同じ研究チームが 2020年6月にNature誌に発表した 同様の果糖研究では「 小腸における果糖代謝が肝臓における脂肪生成を抑制する 」と結論を出しています。

また、同じ果糖を摂るのでも、飲料よりも食べ物で摂った方が、肝臓に輸送される果糖量は少なくなることがわかりました。小腸の果糖の代謝限界量を意識しながら 時間をかけてゆっくり摂っていけば、より多くの果糖が小腸で代謝されていきます。

果糖は肝臓で脂肪になるとは限らない

果糖が肝臓に輸送されたからと言って、脂肪の生産に使われるわけではありません。糖質摂取が過剰でなければ、ブドウ糖に変換されるだけです。

それではどの程度の果糖の量で脂肪肝や他の代謝障害の原因となる脂肪新生がおこるのでしょうか?このテーマに関しては多くの研究が存在します。42件の果糖の代謝への影響を調査したメタ分析研究によると、一日90g 以下ではAbH1Cに影響しない、また、一日50g以下で中性脂肪に影響しない、との結論がでています(3) 。

50gの果糖は100gのショ糖(砂糖)ですね。バナナに換算すると5本分になります(ショ糖の一部としての果糖も含む)。人によってこれを多いとみるのか少ないとみるのかは異なると思いますが、よほどのことがない限りそんなにフルーツを摂ることはないですね。

低糖質食では果糖をさらに摂取できる

果糖が代謝に与える影響を調べた研究は、通常食を食べている被験者に対して行われています。つまり、高糖質な食事です。試験の中で追加で果糖を与えられても、果糖から転換された行き先のないブドウ糖は脂肪になるしかありません。

しかし、低糖質食を行っている人達は、体内のブドウ糖が少ないため、追加で果糖を与えられても、「低糖質」の範囲内である150g/日程度まではおそらく脂肪新生はおこらず、代謝への悪影響はほぼないと考えます。

狩猟採集民族は蜂蜜を常食していた

狩猟採集民族の研究では、蜂蜜は採集できる地域においては重要なカロリー源の一つでした。最もよく研究されているアフリカHadza族の蜂蜜からの摂取カロリーは15%で、これは先ほどの成人のエネルギー消費量2400kcalをベースにすると90gの糖質になります。仮にその40%が果糖であれば、蜂蜜由来の果糖を平均36g/日の量で消費していることになります。

Hadza族の食事に占める占める食材の割合 (カロリー)

Hadza族が住んでいる地域は雨季と乾季があり、乾季にはほとんど蜂蜜が採集できません。半年間しか蜂蜜を消費することができないのですね。先ほどの数字を使うと、雨季には一日平均70g以上の果糖を摂っていることになります。それにもかかわらず、Hadza族を始め、狩猟採集民族には慢性病が存在しないのです。

バオバブの木で蜂蜜の採集
Honey, Hadza, hunter-gatherers, and human evolution

「糖」ではなく「糖の摂りすぎ」を意識

糖を提供してくれる自然の恵みとして、樹液、花蜜、蜂蜜があります。これらには果糖が含まれます。これを、すでに糖質を過剰に摂取している状態で、さらに摂っていくというのは、研究が示すように代謝への悪影響を及ぼす可能性は高いでしょう。

しかし、標準的な食事において摂取する糖質のほとんどは小麦、トウモロコシ、コメなどの穀物由来です。そして、果糖が半分を構成しているショ糖(砂糖)が主に使われるのも、甘くない穀物由来の炭水化物加工食品です。甘みを風味に加えるために砂糖が大量に使われています。

フルーツを食べたり、自然の甘味料をそのまま食べると、その甘味からの満足度は高く、大量に体に入ってくることはありません。穀物による糖の過剰摂取の状態で果糖を非難するよりも、まず穀物摂取を減らしたうえで自然の甘みを摂るようにすれば、全体的な糖質摂取量も減り、果糖の害もありません。批判の対象は果糖そのものよりも、どうして砂糖を大量に使うようになったのかを考えれば明らかです。

ケトジェニック食やプライマル食を行っている限り、30グラムを超えて果糖を摂取する機会はほとんどありませんが、フルーツをデザートに食べるぐらいの量であれば、健康への負のインパクトは考えられません。

(1) Cell Metab. 2018 Feb 6; 27(2): 351–361.e3.
(2) Nature Metabolism volume 2, pages586–593(2020)
(3) The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 88, Issue 5, November 2008, Pages 1419–1437
(4) Journal of Human Evolution 71 (2014) 119-128

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