農業開始以来数百年間、農家は様々な作物を栽培していた中で、きわめて重要な作物を一つ必ず作っていました。
作物、というにはあまりにも当たり前すぎるかもしれません。
それは・・・「草」です。草と言っても、芝のような草からクローバやアルファルファ、その他さまざまな自然のハーブのことなので、厳密には「1つ」ではありません。
「農地を寝かせる」
この言葉を聞いたことがありますか?
同じ土地で何年も栽培を続けていると土壌の栄養がなくなっていきます。そこで、農地を一定期間寝かせると、そこに生えた草が大気中の炭素や窒素を土壌に摂り込んでくれるという、自然による循環が起こります。土壌微生物もより増え、また同じ土地で新たな作物を栽培することが可能になります。
「放牧をする」
その後、農家は土地をただ「寝かせる」よりも生産性を高める方法を発見しました。放牧をすることにより、草はより茂り、農地はより早く回復し、牛という重要なたんぱく源を売ることで新たな収入源を得ました。そして、食事内容が「狩猟採集時代」の栄養にぐっと近くなったことから、農家もそうでない人もより健康になりました。
この農地と放牧地を交互に入れ替え、維持可能な状態で毎年生産していく方法を”混合農業” と呼びます。18世紀中ごろに欧州で始まり、農業生産性が大きく変わりました。当時は化学肥料も農薬も必要ありませんでした。太陽光と大気と作物と土壌微生物のみで自然により自動的に育まれる生態系だからです。
「科学が畜産と農業を分離」
主流な農法としての混合農業 は20世紀に入り、「化学」研究により発明された農薬、除草剤、化学肥料の導入によって、より「近代的」農業に変わっていきました。また、穀物の大量生産が始まると、畜産は農業から切り離され、牛は畜舎に集めて穀物飼育で育てられ、作物は化学薬品・肥料で育て、と完全に分業されました。
科学は農業を取り戻せるか?
畜産と農業の分離が行われると、すぐにその健康被害を主とする弊害に体験的に気づき、多くの運動家達が声を上げ始めましたが、経済性や効率性の前に農業の変革はなりませんでした。
1990年代に入ると微生物の研究が進み、人間の体内外の微生物の共生者としての重要性だけでなく、農業や環境における土壌微生物の重用な役割が明らかになりました。しかし、世界の多くの国々では畜産と農業の分離が終わって半世紀経ち、すでに社会基盤として組み込まれているため、政治や大企業から変革を起こしていくのは困難です。
現在はまだ少数ですが、より自然な食べ物を求める消費者の需要にこたえる形で、農作物、畜産物を作る農家がでてきています。
消費者がこの歴史を理解し、また、健康は生産者である農家から始まる、ということが腑に落ちれば、購買の在り方が変わってきます。消費者が生産者・農家を選ぶことで、また新しい歴史を作っていくことが可能です。