血液脳関門 Blood Brain Barrierは脂肪酸を通すのか?

脳には ブドウ糖とケトン体しか届かない?

脳には血液脳関門と言われるバリアがあります。脳は最も重要な器官ですので、血液を流れる様々な物質のうち、限られたものしか通さないようになっています。

ケトジェニックを学習する中で学ぶのが

「脳はブドウ糖とケトン体しか燃料にできない」

ということです。低糖質食を行うときにはケトン体を肝臓に作ってもらう必要があります。さもないと脳の燃料が無くなってしまうからですね。

そして、ブドウ糖やケトン体は血液脳関門を通過しますが、燃料としてのアミノ酸や脂肪酸は血液脳関門によりブロックされる、ということです。

もし、1分しか答えに時間をもらえないのであれば、そのように言い切るのがよいと思います。さもないと、低糖質食においてはケトン体を使う、という重要なメッセージが伝わらないからです。

しかし、よく考えてみると、この話には不思議な点があることに気づきます。

脳は水分を除くと55%は脂質で構成されています。成長期に脳が形成される時に、そして、成長期以降も脳を維持していくために、脳は脂肪酸が必要なはずです。脳はどのようにこの脂肪酸を調達しているのでしょうか?

「脂肪酸は血液脳関門を通過しない」のであれば、最も簡単な方法は、脳の中でケトン体から必要な脂肪酸をつくることです。

脳は必要な脂肪酸をどのように調達するのか?

成長期における脳に必要な脂肪酸のうち、飽和脂肪酸(ステアリン酸、パルミチン酸)や一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)は脳内における脂肪新生により作られます。対して、多価不飽和脂肪酸は主に食事由来のものが使われます。(1)

不飽和化酵素(デサチュラーセ)は水素を奪うことで脂肪酸に二重結合を作ることができます。つまり、飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸にできるのですね。例えばこれにより、ステアリン酸 (C18:0) からオレイン酸 (C18:1)を作ることができます。

また、長化酵素(エロンガーセ)により脂肪酸を長くすることができます。リノール酸やαリノレン酸からアラキドン酸、EPA、DHAを作ることができます。

酵素により体内、そして脳内でも様々な脂肪酸を作っていく能力があるのですね。

血液脳関門を通る脂肪酸

どの脂肪酸が血液脳関門を通過するのか、またどのように通過するのかに関しての研究は少なく、あまりよく理解されていません。

現時点で分かっている脂肪酸が脳関門を通過する機序としては二つあります。一つは脂肪酸輸送体たんぱくを通して、もう一つは受動輸送です。

脂肪酸輸送体タンパクは特定の脂肪酸のみを通過させるドアのような役割があります。ある脂肪酸は通して、ある脂肪酸は通さないのですね。

受動輸送とは、膜の外側と内側の濃度の差を利用して高いほうから低い方に入っていきます。

しかし、脳で必要な脂肪酸の何割がケトン体からの脂肪新生なのか、輸送体と受動輸送を通る割合はそれぞれの位の割合なのか、どの脂肪酸が選択的にどのくらいの量が取り込まれるのか、などにに関してはまだ明らかなことが分かっていません。人間の脳のことなので、試験が困難であることも研究が進まない理由の一つでしょうね。

脳脊髄液を構成する脂肪酸

初めて 血液と脳脊髄液の脂肪酸の構成を調べた2013年の研究(2)からその割合をグラフにしました。血液脳関門を挟んで脳の外側と内側の脂肪酸の違いがわかります。

SFA=飽和脂肪酸、MUFA=一価不飽和脂肪酸、PUFA-3=オメガ3多価不飽和脂肪酸、PUFA-6=オメガ6多価不飽和脂肪酸です。

まずは血液の脂肪酸の割合です。脳関門を通過する前の脂肪酸の組成です。

次は脳脊髄液の脂肪酸の割合です。脳関門を通過した後の組成です。

特徴としては脳内環境では飽和脂肪酸比率が高く、オメガ6の割合が低いですね。血液の脂肪酸、とくに体内で作れないとされている必須脂肪酸である多価不飽和脂肪酸は 食べ物からの摂取の割合を反映します。

近代の食事には オメガ 6が増えました。人間にとって進化的に自然な食事であれば、本来は オメガ 3と同じ割合のはずですよね。

血液脳関門では必要な脂肪酸を取り込むための輸送体が選択的に正しい脂肪酸のみを取り込もうとしているのであれば、脳内の脂肪酸割合を正常に保つために、 炎症を起こしやすいオメガ 6の取り込みをあえて抑制しているのかもしれません。

中鎖脂肪酸も血液脳関門を通過しエネルギー燃料となる

中鎖脂肪酸もまた、血液脳関門を通過することが分かっています。しかも、脂肪酸の長さが短いことで、長鎖脂肪酸よりも早く通過することができます。

脳では肝臓に比べると僅かですが取り込んだ脂肪酸からケトン体を作ることができます。この際にも中鎖脂肪酸はより効率的にケトン体へと転換されます。

ココナッツオイルに豊富に含まれる中鎖脂肪酸は、そのままでも脳のエネルギーになることができるのです。

オメガ6はリーキーブレインを起こす?

2017年にオメガ3が血液脳関門におけるトランスサイトーシスを抑制を促進することを示した研究がでてきました。

トランスサイトーシスとは、細胞の表面から取り込んだ物質をそのまま反対側まで運び、細胞外に放出する細胞内輸送のことです。

トランスサイトーシスを適切に調節することで、物質の取り込みを調整することができますが、この機能が緩くなると、必要でないものまで脳に入ってきます。

オメガ6由来の食品が大量に増えて、オメガ3の摂取が低下していったこの半世紀にアルツハイマーや統合失調症などの脳内の炎症が原因となる症状が増えていったのは、偶然ではありません。現代人の脳は漏れているのです。

Transcytosis at the blood–brain barrier - ScienceDirect

  Transcytosis at the blood–brain barrier
(4)

(1) J Neurochem . 1998 Mar;70(3):1227-34.
(2) Lipids Health Dis. 2013; 12: 79.
(3) Neuron, 2017; 94 (3): 581 
(4) Current Opinion in Neurobiology Volume 57, August 2019, Pages 32-38

2件のコメント

  1. こんにちは佐野です。「血液脳関門」の事を調べていて浩二さんのブログに辿り着きました。ココナッツオイルが脳関門を通過すると、何か裏付ける記事が欲しかったのです。
    真相に迫る記事が見つからなかったので、こちらを拝見しホッとしました。
    別件ですが、サロンのお客様の話です。糖質を制限できている様に一見感じられますがケトスティックで検査したところベージュから2番目?位の値でした。中鎖脂肪酸の摂取量が足りていない?のでケトン体に転換されていない?って考えで宜しいでしょうか?またケトしテックで検査した時にとの値のケトン体位が望ましいと思われますか?

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