ケトジェニック食・低糖質食と睡眠

「ケトジェニック食や高たんぱく質食などの低糖質食を始めると、早く目が覚めてしまう。朝4時に起きても家族はまだ寝てるから、何も活動できずに困っている。」

「低糖質をしばらく続けていて、ぐっすり眠れるようになったが、睡眠時間は短くなった。」

このような、質問に対してお答えいたします。

覚醒と睡眠のタイミングはサーカディアンリズム(体内時計)のサイクルとその強さに支配されています。

サーカディアンリズムによって睡眠ホルモンといわれているメラトニンの分泌が一日の中でサイクルしています(下の図では青)。

図1

そして目を閉じた時にすっと睡眠に入るには、覚醒時間の間に蓄積されるアデノシンによる睡眠圧が高くなっている必要があります。

低糖質食を行うと短期では睡眠が浅くなる

図1によると成人のメラトニンは21時頃から上昇していきます。メラトニンは「睡眠の準備をしますよ/睡眠の準備ができましたよ」というメッセージです。

この時に睡眠圧がしっかり高ければ睡眠に入ることができます。

メラトニンの前駆体はセロトニンです。セロトニンの前駆体はアミノ酸であるトリプトファンです。

アミノ酸の脳への輸送は、血液脳関門におけるアミノ酸輸送体によって行われていますが、トリプトファンはBCAA(分岐鎖アミノ酸)等その他のアミノ酸と輸送体をシェアしています(2)。輸送体が限られている中、シェアをするということは競合するということですね。乗り物が混み合っていてたくさん乗れないのですね。

糖を摂取するとトリプトファンの脳への輸送量が増えます。

糖を摂るとインスリンが上昇します。インスリンの上昇は糖の取り込みだけでなく、アミノ酸の取り込みも促進します。特に筋肉組織はBCAAを優先的に取り込みます。

これにより、トリプトファンは他のアミノ酸と競合することなく輸送体を通過することができます。糖を摂ることでセロトニンやメラトニンの生産量が多くなるのです。

低糖質食を行うと、トリプトファンの競合は増えますので、ケトン順応中にはセロトニンやメラトニンの生産量が短期的には落ちるとされています。

また、どんなたんぱく源の食事であっても、全アミノ酸におけるトリプトファンの量はごく僅か(ホエイ1.4%、大豆1.3%)ですので、高たんぱく質ダイエットなどを行うと、トリプトファンの脳への輸送はさらに困難になります。

日本人ではほとんどのケースでタンパク質が足りていないので、食事から十分にタンパク質を得ることができなければ、プロティンで補充しましょう。重要なメラトニンの原料です。

ケトジェニック食でもタンパク質摂取量は以前より多くなりますね。タンパク質は適量を心がけることが大切です。(0.8-1.2g / Kg-体重) (3)

長期ではより質の良い睡眠がとれるようになる

低糖質食を始める時に極端な短眠を経験する方でも、数週間もするとカラダは順応していきますので、より質の良い睡眠がとれるようになります。

眠りに入ることが難しかった方も、照明を落とすとすぐに眠れるようになった、という声を聴くことが多いです。

これは、サーカディアンリズムがよりしっかり刻めるようになったことが理由です。

低糖質食を行うとサーカディアンリズムを刻む遺伝子がより発現することが分かってきています(4)。このリズムがしっかり刻めていると、環境(主に光や食事のタイミング)との同期がスムーズに行われるようになります。主な結果としてメラトニンがリリースされます。

したがって、寝床に着いた時に、より深い睡眠に素早く入れます。加齢とともに減少していく深い睡眠ステージ、NREM (SW) 睡眠の時間が多くなるからです(5)。

メラトニンの分泌には糖質をとった方がよいのか

トリプトファンをもっと脳へ輸送するには糖質摂取を増やしていくしかないのでしょうか?

そもそも、このような考え方が出てくるのは、私達が十分な運動をしていないからです。

筋肉に負荷をかけていれば、特に筋トレなどをしっかり行っていれば、カラダはBCAAを使います。運動が週に2回であっても運動中も休息日も筋肉はBCAAを使い続けますので、競合が減ることでトリプトファンの脳への輸送量は増えます。

運動をすればよく眠れる・・・当然ですね。

とはいっても、運動をしてなかった人が運動を生活習慣にしていくのはとても難しいですね。

そのうえで眠れない方には、夜眠る前に小さじ一杯=3g程度の自然糖やハチミツをお勧めすることがあります。理由はその程度の糖質量でも、筋肉がアミノ酸を取り込むためのインスリンは十分分泌されるからです。

睡眠をさらに長く、質を深く

// 環境との同期

ケトジェニック食ではぐっすり眠れることで、睡眠の質は高くなりますが、それでも長さは以前より減ったという方もいらっしゃいます。

これは、ケトジェニックによりサーカディアンリズム遺伝子が活性化することで、外からの光に敏感に反応してしまうのが原因の一つではないかと考えています。朝部屋に差し込む光に反応して起きてしまうのですね。

この解決方法は簡単で、早めに寝る、ということです。暗闇にも敏感に反応するようになっていますので、光がなく、温度も適切であれば、部屋を暗くするとすぐに眠りに入ることができます。

// 食事のタイミング

光以外にもう一つサーカディアンリズムに大きく影響するのが食事のタイミングです。人間は遺伝的に昼間に食べ、夜は食べないようにできています。夕暮れ以降も食べるのは現代人だけなんですね。

食べ物が身体に入ってくると「今はまだ昼間だ」というメッセージがサーカディアン遺伝子に送られます。サーカディアンリズムが狂いますので、睡眠だけでなくあらゆる代謝上の問題が起こります。

// 糖はストレスをリリース

先ほど、夕食の後に糖を少量摂る話をしました。これはトリプトファンの競合アミノ酸を減少させるだけでなく、ストレスを低下させる効果があります (6)。

甘いものを食べた時の「幸せ~」な感じは、幻でもなんでもありません。

図1でもわかるように、睡眠が始まる時間はストレスホルモンであるコルチゾールは低くなっています。ストレスのレベルが高いと、コルチゾールは高くなり、睡眠に入ることが困難になります。

ですので、ストレスを感じている夜には、睡眠の質を高めるために「甘い ~」と感じるのは良いことです・・・3gの糖質で。

1) Nature Reviews Neuroscience volume 20, pages49–65(2019)
2) The Role of Protein and Amino Acids in Sustaining and Enhancing Performance. Institute of Medicine (US) Committee on Military Nutrition Research
3) Appetite. 1986;7 Suppl:99-103.
4) Chronobiol Int. 2012 Aug;29(7):799-809.
5) Nutr Neurosci. 2008 Aug;11(4):146-546) J Clin Endocrinol Metab. 2015 Jun;100(6):2239-47.

1件のコメント

  1. 浩二さん、いつもありがとうございます
    睡眠のメカニズムが分かって良かったです。
    低糖質を始めてから、寝つきが悪くて困っています。
    睡眠との関係がわかりました。

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